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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約24,600字 ・ 読了時間 約50分

あらすじ(AIが作成しました)

江戸の町を恐怖に陥れる凶賊・黒旋風が、次々と犯行予告を出し、銭形平次はその捕縛に奔走する。妙月庵の千両強奪事件や、質屋・淡路屋を巡る騒動など、大胆な予告と巧妙な手口で平次を翻弄する犯人に対し、平次は持ち前の鋭い観察眼と推理で立ち向かう。町方の面子を懸け、黒旋風という得体の知れない存在の正体と、その隠された悪企みを暴くための戦いを描く。

野村胡堂

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【第一回】

一

その頃江戸中を荒した、凶賊黒旋風には、さすがの銭形平次も全く手を焼いてしまいました。

本郷、神田、小石川へかけて、町木戸の無いところを選って、三夜に一軒、五日に二軒、どうかするとそれが連夜に亘って、江戸の物持ち、有徳の町人共を、全く恐怖のドン底に陥入れてしまったのです。

「八、弱ったな、俺は十手捕縄を預かってから、こんなに弱ったことは無いよ」

銭形平次ほどの者が、つくづく嘆息するのはよくよくの事です。

「親分が手に了えないとなると、こいつは人間業じゃありませんね」

親分の腕に信頼し切っている八五郎は、これを鬼神の仕業とでも思って居たのでしょう。

「盗る物は金か、金目のものだ。そんな欲の深えエテ物があってたまるものか、人間の仕業にきまって居るよ」

「それなら、何処に証拠を残すとか、顔を見られるとか、尻尾位はつかまりそうなものじゃありませんか」

「笹野の旦那もそれを仰しゃるのだ、江戸の町人の難儀は、竜の口の御評定にもお話が出たそうだ、これで年を越された日にゃ町方一統の名前にかかわる――とな」

「それを親分一人が気を揉むことが無いじゃありませんか、雀の涙ほどでも、お上の御手当を頂いているこちとらから、二百俵のお禄を頂戴している八丁堀の檀那方まで、みんな一様に、黒旋風に馬鹿にされてるわけで」

明神下、銭形平次の住居、貧乏臭い平舞台――平次は長火鉢の猫板に頬杖を突いて、八五郎は縁側に腰を掛けたまま、不景気極まる話に日が暮れそうです。

恋女房のお静は、お勝手でせっせと夕餉の仕度でした。聞かない積りでも、ツイ耳に入る二人の愚痴を、大根を刻む手を休めて、ホッと溜息などを吐くのです。

亭主の仕事に口を出しちゃならねえ――日頃そう言われているお静です。お上の御用向のことは、右の耳から入っても、左の耳に素通りさせる気でいても、割切れない滓みたいなものが、お静の胸にこびり付いて、時々は眉も曇り、溜息にもなるのでしょう。

「俺一人が黒旋風に狙われるわけ、これを見なよ、八」

平次は懐から小さい紙片を出しました。半紙を八つに切って、又二つに畳んだ、観世捻のような代物、開くとその中には、かなりの達筆で、

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