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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約11,400字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

向柳原の十三屋の娘お曾與が何者かに絞め殺される事件が発生する。伊丹屋の若旦那・駒次郎は、事件の解決を銭形平次に依頼し、自ら被害者に名乗り出る。平次は八五郎と共に調査を進め、現場に残された三尺の持ち主や、被害者と関わりのあった周囲の人物を洗い出す。捜査の中で、駒次郎が過去の弱みを握られ、十三屋の文吉に脅迫されていた事実が浮上する。金で全てを解決しようとする駒次郎の身勝手な振る舞いを平次が見抜き、ついに真実を暴く。

野村胡堂

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一

「親分、小柳町の伊丹屋の若旦那が來ましたぜ。何か大變な事があるんですつて」

「恐ろしく早いぢやないか、待たしておけ」

「へエ――」

平次は八五郎を追ひやるやうに、ガブガブと嗽ひをしました。

美しい朝です。鼻の先がつかへる狹い路地の中へも、金粉を撒き散らしたやうな光が一パイに射して、初夏の爽やかさが、袖にも襟にも香りさう、耳を澄ますと明神の森のあたりで、小鳥が朝の營みにいそしむ囀りが聞えます。

こんな快適な朝――起き拔けの平次を待ち構へてゐるのは、一體どんな仕事でせう。血腥い事件の豫感に、平次は一寸憂欝になりましたが、直ぐ氣を變へて、ぞんざいに顏を洗ふと、鬢を撫で付け乍ら家へ入つて行きました。

「親分、た、大變なことになりました」

伊丹屋の大身代を繼いだばかり、まだ若旦那で通つてゐる駒次郎は、平次の顏を見ると、上がり框から起ち上がりました。少し華奢な、背の高い男です。

「駒次郎さんかい、――どうしなすつたえ?」

萬兩分限の地主の子に生れた駒次郎は、この春伊丹屋の主人になつて、尤もらしい尾鰭を加へたにしても、平次の眼にはまだ道樂者の若旦那でしかなかつたのです。

「皆んな、隱せるものなら隱す方がいゝつて言ひますが、私はあんまり口惜しいから、親分の力を借りて、下手人を見付け、二度とそんな事のないやうにしてやりたいと思ひます」

駒次郎は、女の子のやうに、少し品を作つてお辭儀をしました。色の白さも、襟の青さも、裾を引く單衣の長さも、そのまゝ芝居に出て來る二枚目です。

「隱すの、下手人の――つて、一體それは、どんな事で?」

「親分、聞いて下さい。昨夜向柳原の十三屋のお曾與が殺されましたよ」

「えツ」

「母親と一緒に風呂へ行つた歸り、――一と足先に歸つて來たところを路地の中で絞められて――」

「それを隱して置く法はない、誰がそんな事を言ひ出したんだ」

「私の家の番頭達が言ひ出し、十三屋へは金をやつて、うやむやにするつもりでした」

平次も驚きました。向柳原の名物娘が一人、絞め殺されて死んだのを、うやむやに葬るといふのは、あまりと言へばわけが解らなさ過ぎます。

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