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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約12,000字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

捕物の名人・錢形平次は、文身自慢の會という江戸中で話題の催しに潜入する。会場には十二支の文身を体に隠し持つ者たちが集っており、平次は石原の利助の子分である清次郎や謎の男女に関わる事件の真相を追う。十二支組による連続殺人の影が見え隠れする中、平次は文身の隠し場所から犯人の正体と目的を推理し、追いつめていく。本作は、文身文化が発達した時代の江戸を舞台に、平次の活躍と事件の解決過程を描く物語である。

野村胡堂

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一

「やい、ガラツ八」

「ガラツ八は人聞きが惡いなア、後生だから、八とか、八公とか言つておくんなさいな」

「つまらねエ見得を張りあがるな、側に美しい新造でも居る時は、八さんとか、八兄哥とか言つてやるよ、平常使ひはガラツ八で澤山だ。贅澤を言ふな」

「情けねえ綽名を取つちやつたものさね。せめて、錢形の平次親分の片腕で、小判形の八五郎とか何とか言や――」

「馬鹿野郎、人樣が見て笑つてるぜ、往來で見得なんか切りやがつて」

「へエ」

捕物の名人、錢形の平次と、その子分ガラツ八は、そんな無駄を言ひ乍ら、濱町河岸を兩國の方へ歩いて居りました。

逢へばつまらない無駄ばかり言つて居りますが、二人は妙に氣の合つた親分子分で、平次のやうな頭の良い岡つ引に取つては、少し腦味噌の少ない、その代り正直者で骨惜しみをしないガラツ八位のところが、丁度手頃な助手でもあつたのでせう。

「ところで、八」

「へツ、有難てえことに、今度はガラ拔きと來たね。何です親分」

「今日の行先を知つて居るだらうな」

「知りませんよ。いきなり親分が、サア行かう、サア行かう――て言ふから跟いて來たんで、時分が時分だから、大方『百尺』でも奢つて下さるんでせう」

「馬鹿だね、相變らず奢らせる事ばかり考へてやがる――今日のはそんな氣のきいたんぢやねえ」

「へエ――さうすると、何時か見たいに、食はず飮まずで、人間は何里歩けるか、お前に試させるんだ、てな事になりやしませんか」

「いや、そんな罪の深いのぢやないが――變な事を聞くやうだが、手前、身體を汚したことがあるかい」

「身體を汚す?」

「文身があるかといふことだよ、――實は今日兩國の種村に『文身自慢の會』といふのがあるんだ」

「へエ――」

「これから覗いて見ようと想ふんだが、蚤が螫した程でもいゝから、身體に文身のない者は入れないことになつて居る」

「それなら大丈夫で」

「あるかい」

「あるかいは情けねえ、この通り」

袷の裾を捲つて見せると、成程、ガラツ八の左の足の踝に筋彫で小さく桃の實を彫つたのがあります。

「ウ、フ、――その文身の方が情けねえ」

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