銭形平次捕物控
本文約12,800字 ・ 読了時間 約26分
あらすじ(AIが作成しました)
神田の銭形平次は、巣鴨の梅屋敷に住む旗本の愛妾お紋から、怪盗・幻の民五郎に命を狙われていると助けを求められる。平次は屋敷を訪れ、不可解な足跡や女中の様子に違和感を抱きながら調査を進める。やがて夜の離屋で曲者の襲撃を受けた平次は、密かに待ち伏せていた手下の八五郎と共に、正体を現したお紋と対峙する。本作は、江戸を騒がす怪盗を追い詰める名捕物捕吏の活躍と、女の欲望が絡む事件の真相を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、梅はお嫌いかな」
「へえ?」
銭形平次も驚きました。相手は町内でも人に立てられる三好屋の隠居、十徳まがいの被布かなんか着て、雑俳に凝っていようという仁体ですが、話が不意だったので、平次はツイ梅干を連想せずにはいられなかったのです。
「梅の花じゃよ、――巣鴨のさる御屋敷の庭に、たいそう見事な梅の古木がある。この二三日はちょうど盛りで、時には鶯も来るそうじゃ。場所が場所だから、俗も風雅も一向寄り付かない。御屋敷の新造が解った方で、――三好屋の知合いで、風流気のある方があったら、ぜひ御一緒に――とこう言うのじゃ、どうだな、八五郎兄哥」
三好屋の隠居は、相変らず日向に寝そべって、自分の身体一つを持て余しているガラッ八の八五郎に声を掛けました。
「梅の花というと、花合せの赤丹を思い出すような人間に、風流気なんかあるわけはありません。御隠居さん、無駄ですよ」
平次は苦笑いをしております。
「お言葉だがネ親分、梅の花なんざ、小汚ねえばかりで面白くも何ともねえが、御馳走と新造付きなら考えるぜ」
「馬鹿野郎、何て口の利きようだ」
「いいやね、親分、八兄哥は正直だ、――それに向うじゃ、平次親分を伴れて来て下されば、恩に着ますって言うくらいだから、御馳走の方は俺が引受けますよ」
三好屋の隠居は、何心なく筋書の底を割ってしまいました。
「へッ、御名指しと来やがる、お安くねえぜ、親分」
とガラッ八。
「そんな事だろうと思いましたよ、御隠居さん、話が筋になりそうだ、御供しましょう」
「行って下さるか、親分」
三好屋の隠居は有頂天でした。何か余程甘い話がありそうです。
すぐ支度に取掛かって、三人連れの無駄話に興じながら、巣鴨の屋敷に着いたのは、かれこれ未刻半刻(三時)。
藁葺の洒落た門を入って、右左に咲き過ぎた古木の梅を眺めながら、風雅な入口の槃を叩くと、
「…………」
美しい女中が現れて、行儀正しく式台に三つ指を突きます。
何だか、昼狐につままれたような心持、平次はもとより、お喋舌のガラッ八も、毒気を抜かれて黙り込んでしまいました。
「神田の三好屋が、平次親分を連れて参りました。御新造様に御取次を願います」