銭形平次捕物控
本文約14,100字 ・ 読了時間 約29分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の街で花嫁が次々と行方不明になる事件が発生する。捕物名人の銭形の平次は、同様の被害を防ぐために自ら囮となる計画を立て、許嫁のお静と共に祝言を挙げる。犯人の一味に誘拐されたお静は、密かに機転を利かせて救出を待つ。平次は水上へ逃走を図った女賊と仲間たちを大川で追い詰め、捕縛して七人の花嫁を救い出す。
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本篇もまた、平次の独身もの。許嫁の美しくて純情なお静が平次のために喜んで死地に赴きます。
一
「やい、八」
「何です、親分」
「ちょいと顔を貸しな」
「へ、へ、へッ、こんな面でもよかったら、存分に使って下せえ」
「気取るなよ、どうせ身代りの贋首ってえ面じゃねえ、顔と言ったのは言葉の綾だ。本当のところは、手前の足が借りてえ」
捕物の名人と謳われるくせに、滅多に人を縛ったことのない御用聞の銭形の平次は、日向でとぐろを巻いている子分のガラッ八にこんな調子で話しかけました。
松は過ぎましたが、妙に生暖かいせいか、まだ江戸の街にも屠蘇の酔いが残っているような昼下がり、中年者の客を送り出すと、平次はすぐ縁側へ廻って、ガラッ八を居睡りから呼び起したのです。
「ヘエ――、どこへ飛んで行きゃアいいんで――」
「今の話を聞いたろう、あの客が長々と話し込んだ――」
「いいえ」
「聞かねえ?」
「人の話なんか聞きゃしませんよ、そんなさもしい八さんじゃねえ」
「いい心掛けだ、――と言いてえが、実は居睡りをしていたんだろう」
「まアそんなところで、――何しろ日向は暖けえし、懐は涼しいし、凝としていりゃ、睡くなるばかりで――」
「呆れたものだ。まアいいやな、俺が詳しく復習ってやろう」
「お手数でもそう願いましょうか」
「黙って聞けよ」
「ヘエ――」
平次の態度には例に似気なく真剣なところがあるので、無駄の多いガラッ八も、さすがに口を緘んで、親分の顔を見上げました。
「今ここへ見えたのは、十軒店の八百徳の主人だ。一人娘のお仙を、同じ商売仲間の末広町の八百峰の跡取り息子に嫁にやるについて、俺の力が借りたいと言うのだよ」
「悪い虫でも付いているんでしょう、どうせ当節の娘だ」
「そんな話じゃねえ。聞けば近頃、神田から日本橋へかけて、花嫁がチョイチョイ消えてなくなるそうだな」
「それなら聞きましたよ。祝言の晩に行方知れずになった花嫁は、暮からこっち、二人ぐらいあるでしょう。どうせ言い交した男でもあって、いよいよという晩に花嫁姿で道行を極めたんじゃありませんか。土壇場に据えると女の子は思いのほか強くなりますからね」