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作者の言葉
犯人は最初から読者の目の前にいながら最後までどれが犯人だか分らない。と云うのが所謂本格探偵小説の一つの条件みたいになっています。なるべくその条件に適わせることを心掛けました。敏感な読者は四五回も読まぬ内に犯人が分ってしまうかも知れません。又探偵小説に不慣れな読者には、最後までそれが分らないかも知れません。丁度その辺の所を狙ってある訳です。知識的遊戯として、謎々を解く気持でお読み下されば結構です。
「時事新報(夕刊)」昭和四年十一月十九日、二十四日
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一、奇妙な盗賊
「この話はあなたが小説にお書きなさるのが当然です。是非書いて下さい」
ある人が私にその話をしたあとで、こんなことを云った。四五年以前の出来事だけれど、事件の主人公が現存していたので憚って話さなんだ。その人が最近病死したのだ。ということであった。
私はそれを聞いて、成程当然私が書く材料だと思った。なにが当然だかは、ここに説明せずとも、この小説を終まで読めば自然に分ることである。
以下「私」とあるのは、この話を私に聞かせてくれた「ある人」を指す訳である。
ある夏のこと、私は甲田伸太郎という友人に誘われて、甲田程は親しくなかったけれど、やはり私の友達である結城弘一の家に、半月ばかり逗留したことがある。その間の出来事なのだ。
弘一君は陸軍省軍務局に重要な地位を占めている、結城少将の息子で、父の邸が鎌倉の少し向うの海近くにあって、夏休みを過すには持って来いの場所だったからである。
三人はその年大学を出たばかりの同窓であった。結城君は英文科、私と甲田君とは経済科であったが、高等学校時代同じ部屋に寝たことがあるので、科は違っても、非常に親しい遊び仲間であった。
私達には、愈々呑気な学生生活にお別れの夏であった。甲田君は九月から東京のある商事会社へ勤めることになっていたし、弘一君と私とは兵隊にとられて、年末には入営である。何れにしても、私達は来年からはこんな自由な気持の夏休みを再び味えぬ身の上であった。そこで、この夏こそは心残りのないように、充分遊び暮そうというので、弘一君の誘いに応じたのである。