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(作者申す)この物語はマリイ・コレルリ女史の傑作『ヴェンデッタ』を、私流に改作したものです。『ヴェンデッタ』には已に黒岩涙香の名訳『白髪鬼』があるので、私は同書版権所有者の承諾を得て、態と同じ題名を用いることにしました。併し、内容は、原作とも涙香の訳とも、大分違ったものになる積りです。
「冨士」昭和六年四月号
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異様な前置き
今わしの前には、この刑務所の親切な教誨師が、わしの長物語が始まるのを、にこやかな笑顔で待受けておられる。わしの横手には、教誨師が依頼してくれた、達者な速記者が、鉛筆を削って、わしの口の動き出すのを待構えている。
わしはこれから、親切な教誨師の勧めによって、毎日少しずつ、数日に亙って、わしの不思議な身の上話を始めようとするのだ。教誨師は、わしの口述を速記させ、いつか一冊の本にして出版する積りだと云っておられる。わしもそれが望みだ。わしの身の上は、世間の人が夢にも考えたことがない程、奇怪千万なものであるからだ。イヤ、奇怪千万なばかりではない。これを世の人に読んで貰ったなら、幾分でも勧善懲悪のいましめにもなることであるからだ。
春の様になごやかであったわしの半生は、突然、歴史上に前例もない様な、恐ろしい出来事によって、パッタリと断ち切られてしまった。それからのわしは、地獄の底から這い出して来た、一匹の白髪の鬼であった。払えども去らぬ、蛇の様な執念の虜であった。そして、わしは人を殺した。アア、わしは世にも恐ろしい殺人者なのだ。
わしは当然、お上の手に捕えられ、獄に投ぜられた。裁判の結果は、死刑にもなるべき所を、刑一等を減ぜられ、終身懲役と極まった。死刑は免れた。併し、絞首台の代りに、わしの良心が、わしの肉体を、長い年月の間に、ジリジリと殺して行った。わしの余命は、もう長いことはない。身の上話をするなら、今の内だ。
さて、身の上話を始めるに当って、二つ三つ、断って置かねばならぬことがある。少々退屈かも知れぬが、これは皆、わしの物語に非常に重大な関係を持っていることだから、我慢をして聞いて貰い度い。