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TORENDIA

雪割草の花

本文約2,500字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

信州旅行の帰路、仕事の憂鬱を抱えていた作者は、偶然見かけた雪割草を購入し、自宅の鉢で栽培を始める。年内の開花を期待して丹念に世話をするが、なぜか蕾が次々と消える不可解な事態に直面し、妻との喧嘩が絶えなくなる。ある朝、犯人が幼い娘であると判明する顛末を描きつつ、庭に植えた残りの雪割草が健やかに花を咲かせる様子までを綴る随筆。

石川欣一

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🎧 雪割草の花 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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もう一月ばかり前から、私の庭の、日当りのいい一隅で、雪割草がかれんな花を咲かせている。白いのも、赤いのも、みんな元気よく、あたたかい日の光を受けると頭をもたげ、雪なんぞ降るといかにもしょげたように、縮みあがる。この間、よつんばいになってかいでみたら、かすかな芳香を感じた。蝶もあぶもいないのに、こんな花を咲かせて、どうするつもりなのか、見当もつかぬが、あるいは神の摂理とかいうものが作用して、これでも完全に実を結ぶのかもしれぬ。

*

この花、本名は雪割草でないらしい。別所さんの「心のふるさと」には、

植木屋さんが雪割草というのは、スハマソウのことである。福寿草とともに、お正月の花のようにいわれるけれど、自然のままでは、東京の三月に咲く。

と書いてある。

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去年の十一月、私はわずかな暇をぬすんで、信州へ遊びに行った。まったく黄色くなった落葉松の林、ヨブスマの赤い実、山で焼いた小鳥の味、澄んだ空気、それから、すっかり雪をいただいた鹿島槍の連峰……大阪に帰って来てからも、しばらくは仕事に手がつかなかった。万事万端、灰色で、きたなくて、わずらわしかった。これは山の好きな人なら、だれでも経験する気持ちであろう。

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このような気持ちでいたある日、五時半ごろに勤めさきの会社を出ると、空はすっかり曇って、なんともいえぬ暗い、陰湿な風が吹いている。ますます変な気持ちになってしまった。そこで、偶然いっしょになった同僚のN君と、一軒の居酒屋へ入り、ここで酒を飲んだ。で、いささか元気がついて、梅田の方へ歩いて行くと、植木屋の店頭で見つけたのが「加賀の白山雪割草、定価十銭」

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十銭といったところで、単位が書いてないから、一株十銭なのか、一たば十銭なのか、わからない。とにかく五十銭出すと、小僧さんが大分たくさんわけてくれた。新聞紙で根をつつみ、大切にして持って帰った。

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あくる日は、うららかに晴れて風もなく、悠々と草や木を植えるには持ってこいであった。私は新聞紙をとき、更に根を結んであった麦わらを取り去って、数十本の雪割草を地面にならべた。見るとつぼみに著しい大小がある。今にも咲きそうなのが五、六本ある。

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