灰神楽
本文約13,200字 ・ 読了時間 約27分
あらすじ(AIが作成しました)
河合庄太郎は、奥村一郎を拳銃で殺害し、部屋に舞い上がった灰で視界を遮る。彼は自らの疑いを晴らすため、庭で遊んでいた奥村二郎のボールが部屋の火鉢に落ちたように偽装する工作を行う。しかし、警察が訪れた際、二郎が火鉢のすり替えとボールの購入経路という決定的な証拠を指摘したことで、庄太郎の緻密な計画は露見する。この作品は、完全犯罪を画策する犯人の心理と、その巧妙な偽装が崩れ去る過程を描く。
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一
アッと思う間に、相手は、まるで泥で拵えた人形がくずれでもする様に、グナリと、前の机の上に平たくなった。顔は、鼻柱がくだけはしないかと思われる程、ペッタリと真正面に、机におしつけられていた。そして、その顔の黄色い皮膚と、机掛の青い織物との間から、椿の様に真赤な液体が、ドクドクと吹き出していた。
今の騒ぎで鉄瓶がくつがえり、大きな桐の角火鉢からは、噴火山の様に灰神楽が立昇って、それが拳銃の煙と一緒に、まるで濃霧の様に部屋の中をとじ込めていた。
覗きからくりの絵板が、カタリと落ちた様に、一刹那に世界が変って了った。庄太郎はいっそ不思議な気がした。
「こりゃまあ、どうしたことだ」
彼は胸の中で、さも暢気相にそんなことを云っていた。
併し、数秒間の後には、彼は右の手先が重いのを意識した。見ると、そこには、相手の奥村一郎所有の小型拳銃が光っていた。「俺が殺したんだ」ギョクンと喉がつかえた様な気がした。胸の所がガラン洞になって、心臓がいやに上の方へ浮上って来た。そして、顎の筋肉がツーンとしびれて、やがて、歯の根がガクガクと動き始めた。
意識の恢復した彼が第一に考えたことは、いうまでもなく「銃声」についてであった。彼自身には、ただ変な手答えの外何の物音も聞えなかったけれど、拳銃が発射された以上、「銃声」が響かぬ筈はなく、それを聞きつけて、誰かがここへやって来はしないかという心配であった。
彼はいきなり立上って、グルグルと部屋の中を歩き廻った。時々立止っては耳をすました。
隣の部屋には階段の降り口があった。だが庄太郎には、そこへ近づく勇気がなかった。今にもヌッと人の頭が、そこへ現れ相な気がした。彼は階段の方へ行きかけては引返した。