TRENDIA CLASSIC
モノグラム
江戸川乱歩
1 / 15
私が、私の勤めていたある工場の老守衛(といっても、まだ五十歳には間のある男なのですが、何となく老人みたいな感じがするのです)栗原さんと心安くなって間もなく、恐らくこれは栗原さんの取って置きの話の種で、彼は誰にでも、そうした打開け話をしても差支のない間柄になると、待兼ねた様に、それを持出すのでありましょうが、私もある晩のこと、守衛室のストーブを囲んで、その栗原さんの妙な経験談を聞かされたのです。
栗原さんは話上手な上に、なかなか小説家でもあるらしく、この小噺めいた経験談にも、どうやら作為の跡が見えぬではありませんが、それならそれとして、やっぱり捨て難い味があり、そうした種類の打開け話としては、私は未だに忘れることの出来ないものの一つなのです。栗原さんの話しっぷりを真似て、次にそれを書いて見ることに致しましょうか。
いやはや、落しばなしみたいなお話なんですよ。でも、先にそれを云って了っちゃ御慰みが薄い。まあ当り前の、エー、お惚気のつもりで聞いて下さいよ。
私が四十の声を聞いて間もなく、四五年あとのことなんです。いつもお話する通り、私はこれで相当の教育は受けながら、妙に物事に飽きっぽいたちだものですから、何かの職業に就いても、大抵一年とはもたない。次から次と商売替えをして、到頭こんなものに落ちぶれて了った訳なんですが、その時もやっぱり、一つの職業を止して、次の職業をめっける間の、つまり失業時代だったのですね。御承知のこの年になって子供はなし、ヒステリーの家内と狭い家に差し向いじゃやりきれませんや。私はよく浅草公園へ出掛けて、所在のない時間をつぶしたものです。
江戸川乱歩の他の作品
TRENDIA CLASSIC
指環
江戸川乱歩
指環
江戸川乱歩 ・ 約7分
TRENDIA CLASSIC
赤いカブトムシ
江戸川乱歩
赤いカブトムシ
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
悪霊物語
江戸川乱歩
悪霊物語
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
赤い部屋
江戸川乱歩
赤い部屋
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
「悪霊物語」自
作解説
江戸川乱歩
「悪霊物語」自作解説
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
悪霊
江戸川乱歩
悪霊
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
一枚の切符
江戸川乱歩
一枚の切符
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
暗黒星
江戸川乱歩
暗黒星
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
偉大なる夢
江戸川乱歩
偉大なる夢
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
悪魔の紋章
江戸川乱歩
悪魔の紋章
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
一寸法師
江戸川乱歩
一寸法師
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
江川蘭子
江戸川乱歩
江川蘭子
江戸川乱歩