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TORENDIA

モノグラム

本文約11,000字 ・ 読了時間 約22分

あらすじ(AIが作成しました)

浅草公園のベンチで、栗原一造は面識のない男・田中三良に話しかけられる。田中は一造の顔に見覚えがあると言い、かつて一造が密かに想いを寄せていた北川すみ子の名前を出す。すみ子の形見と称する懐中鏡を見せられ、一造は昔の恋心を呼び覚まされる。しかし、帰宅後に妻・お園がその鏡を自分の物だと言い出したことで、事態は一変する。かつて盗難に遭った私物が巡り巡って誤解を生んでいたと判明し、一造は淡い期待と幻想を打ち砕かれることになる。

江戸川乱歩

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私が、私の勤めていたある工場の老守衛(といっても、まだ五十歳には間のある男なのですが、何となく老人みたいな感じがするのです)栗原さんと心安くなって間もなく、恐らくこれは栗原さんの取って置きの話の種で、彼は誰にでも、そうした打開け話をしても差支のない間柄になると、待兼ねた様に、それを持出すのでありましょうが、私もある晩のこと、守衛室のストーブを囲んで、その栗原さんの妙な経験談を聞かされたのです。

栗原さんは話上手な上に、なかなか小説家でもあるらしく、この小噺めいた経験談にも、どうやら作為の跡が見えぬではありませんが、それならそれとして、やっぱり捨て難い味があり、そうした種類の打開け話としては、私は未だに忘れることの出来ないものの一つなのです。栗原さんの話しっぷりを真似て、次にそれを書いて見ることに致しましょうか。

いやはや、落しばなしみたいなお話なんですよ。でも、先にそれを云って了っちゃ御慰みが薄い。まあ当り前の、エー、お惚気のつもりで聞いて下さいよ。

私が四十の声を聞いて間もなく、四五年あとのことなんです。いつもお話する通り、私はこれで相当の教育は受けながら、妙に物事に飽きっぽいたちだものですから、何かの職業に就いても、大抵一年とはもたない。次から次と商売替えをして、到頭こんなものに落ちぶれて了った訳なんですが、その時もやっぱり、一つの職業を止して、次の職業をめっける間の、つまり失業時代だったのですね。御承知のこの年になって子供はなし、ヒステリーの家内と狭い家に差し向いじゃやりきれませんや。私はよく浅草公園へ出掛けて、所在のない時間をつぶしたものです。

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