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TORENDIA

大謀網

本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

伊豆の伊東沖に設置された大謀網の視察を通じ、網の構造や漁師の過酷な労働実態を描く随筆。潮流を利用した定置網の仕組みや、網をたぐり寄せる「胸しめ」と呼ばれる重労働の様子を記録する。著者は物理学の観点から漁業の機械化の難しさを考察しつつ、魚群探知技術の将来性に思いを馳せる。古くから続く漁獲方法が現代の環境変化の中で消えゆく様を捉え、その技術と営みを後世に伝えるべく執筆された貴重な記録である。

中谷宇吉郎

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🎧 大謀網 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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伊豆の伊東の温泉の沖合に、大謀網が設置されていたころの話である。

高等水産学校につとめているI君が漁撈の視察にやってきて、大謀網を見に行きませんかというので、一緒に出掛けることにした。I君は心得たもので、土地の水産組合へ行って名刺を出して、大謀網の魚を運ぶ船に乗せてもらうようにすっかり手配してくれた。

四月のことで、海の風はまだなかなか寒い。小さい発動機船の中には、部屋らしいものもないので、機関のそなえつけられている穴のような所へもぐり込んで、首だけ出して親方らしい人に色々説明をききながら行った。

半里ばかりの沖合に、旗が二本ひらめいている。太い孟宗竹を何十本と束ねて縛ったものを浮標にして、重い錘をつけておくと、それが海の中でいわゆる定置網の拠点になるのである。そういう拠点になる大きい浮標が二つあって、その各々には旗を立てて目印にしてある。二つの浮標の距離は四町もあるという話であるが、海の中では、それがまるで二本並んでいるように見える。

船が近くへ行くと、この二つの拠点の浮標をつらねて、同じような孟宗竹の浮標が沢山海上に浮んでいるのが見えてくる。それらの浮標は、旗印を両頂点に持った紡錘形をなして水上に配置されている。この紡錘形はそれで長さが四町になるわけで、幅も七十間という厖大なものである。

網はこの紡錘状に配置された浮標から水中に垂れ下っているのであって、たっぷり海底まで届いている。そして網の底は一枚に続いて海底を蔽っているのであって、いわば途方もなく大きい紡錘形の口を持った網を海上に浮かべたようなものである。もっともそれでは魚のはいる口がないので、紡錘形の腹の一部が切れて入口になっている。

その入口の一方の浮標からはまた他の沢山の浮標が長く続いて真直ぐに伸び出ている。そしてそれらの浮標からは、一枚の網が水中に垂れ下って底まで達しているのだそうである。それは垣網というのであって、大抵はこの垣網はその地点の潮流の方向と大体垂直になるように配置されている。

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