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TORENDIA

室鰺

本文約2,500字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

伊豆の東海岸の温泉地で過ごす著者が、秋の訪れとともに水揚げされる室鰺の干物作りを観察し、干物が単なる貯蔵法ではなく一つの料理法であることを考察する随筆。新鮮な魚を干す過程で起きる科学的変化や、食生活における妻の台所仕事を通じて、人間の味覚が持つ微細な感度について論じる。伝統的な生活の知恵の中に潜む法則や、季節の移ろいとともに味わう旬の魚料理の情景を綴る。

中谷宇吉郎

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🎧 室鰺 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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伊豆の東海岸のこの温泉地では秋風の立ち始めるとともに、また室鰺が沢山漁れ出した。去年の秋の暮、少し静養の意味で、漁港と温泉とを兼ねたここの土地へ移ってきてからもう一年に近い。初めてきた時はちょうど室鰺の盛りの時期であった。通りに面して魚屋の店先には、小鰺と、室鰺との干物が一面に並べられて、秋の陽を一杯に受けながら行儀よく並んで乾されていた。それがいつの間にか段々少くなって行く中に春がきて、今また秋とともに室鰺の大群がここの海にかえってきたのを見ると、季節の移りかわりがよく感ぜられる。

誰の発意か分らないが、開いた鰺を一面に並べた網の枠は、少しばかり斜に立てかけられて、その上の方に煽風器が置いてある。そして煽風器の金網には五尺ばかりの色テープが結びつけられていて、煽風器が首をふるにつれて、その色テープが鰺の上を撫でながら蠅を追うような仕掛になっている。なるほどこうすれば乾燥も早いし、蠅の心配もないし、名案だと感心したらどこでも皆そうしていますと笑われた。しかし初めて考えた人は偉いと思った。

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