猟奇の果
本文約133,900字 ・ 読了時間 約268分
あらすじ(AIが作成しました)
名古屋の資産家で退屈な日々に飽き飽きしている青木愛之助は、刺激を求めて犯罪の真似事をする猟奇倶楽部を主宰する。愛之助は東京大学時代の友人である品川四郎と互いに軽蔑し合いながらも奇妙な交友を続けていた。ある日、九段の見世物会場で起きた奇怪な事件を機に、二人は現実と虚構が入り混じる異常な遊戯へと引き込まれていく。刺激を追い求める男たちの狂気的な執着と、その果てにある真相を巡る物語。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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前篇 猟奇の果
はしがき
彼は余りにも退屈屋で且つ猟奇者であり過ぎた。
ある探偵小説家は(彼も又退屈の余り、此世に残された唯一の刺戟物として、探偵小説を書き始めた男であったが)この様な血腥い犯罪から犯罪へと進んで行って、遂には小説では満足出来なくなり、実際の罪を、例えば殺人罪を、犯す様なことになりはしないかと虞れた由であるが、この物語の主人公は、その探偵作家の虞れたことを、実際にやってしまった。猟奇が嵩じて、遂に恐ろしい罪を犯してしまった。
猟奇の徒よ、卿等は余りに猟奇者であり過ぎてはならない。この物語こそよき戒である。猟奇の果が如何ばかり恐ろしきものであるか。
この物語の主人公は、名古屋市のある資産家の次男で、名を青木愛之助と云う、当時三十歳になるやならずの青年であった。
パンの為に勤労の必要もなく、お小遣と精力はあり余り、恋は、美しい意中の人を妻にして三年、その美しさに無感覚になってしまった程で、つまり、何一つ不足なき身であったが故に彼は退屈をしたのである。そして、所謂猟奇の徒となり果てたのである。
彼はあらゆる方面でいかもの食いを始めた。見るものも、聞くものも、たべるものも、そして女さえも。だが、何物も彼の根強い退屈を癒してくれる力はなかった。
その様な彼であったから、当然探偵小説という文学中でのいかものを耽読した。犯罪に興味を持った。そして、猟奇の徒が犯罪の一つ手前の刺戟物として、好んで試みる所の、例の猟奇倶楽部という、変な遊戯をさえ始めた。だが、これとても、結局は彼の退屈を一層救い難きものにしたばかりである。刺戟が強くなればなる程、一方ではそれを感じる神経の方で、麻痺して行くのだ。
とは云え、犯罪以外の刺戟剤としては、この猟奇倶楽部が最後のものであった。