TRENDIA CLASSIC

早稲田大学

尾崎士郎

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新秋の一日、――私は大隈会館の庭園の中を歩いていた。午後の空が曇っているせいか、手入れの行きとどいた庭園でありながら、何となく荒廃したかんじが視野の中にあふれている。昔は樹立のふかい、雅趣のゆたかな庭であった。時代とともに錆びついた色彩が、チラチラと記憶の底からよみがえってくるだけに、今はあとかたもなく変りはてた、がらんどうの広場をゆびさしながら、此処が昔は落葉に埋もれたほそい道で、老侯爵は毎日必ず食後の散歩をされるのが習慣になっていました、――と、自信にみちた調子で語りつづけるN氏の声から、私は何の印象をさぐりあてることもできなかった。

戦災で焼け落ちたあとに、「大隈会館」と呼ばれている、あたらしくつくられた集会所式の建築が、私の記憶の中に残る古色蒼然たる庭園の風致と調和していないためでもあった。

昔は底の知れぬほど宏大であると思った庭が、これほど小じんまりとした寸の詰った地域に限られていることにさえ私は先ず驚愕の眼を瞠った。まだ季節は九月も半ばをすぎたばかりで風のつよい日であったが残暑はしっとりと大気の底にねばりついている。雲は低く垂れさがってはいたけれども、しかし新秋の爽かさは、ときどき、しいんと身うちに迫るようであった。庭園の周囲にあった杉の並木も、ことごとく戦災のために枯れつくして、昔ながらの形をとどめている樹木なぞは一本も残ってはいないというのだから、荒廃のかぎりをつくしたものらしい。その焼あとの中から、これだけの原形をさぐりだすことさえ容易な仕事ではなかったかも知れぬ。

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