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TORENDIA

捨てる文化

本文約8,700字 ・ 読了時間 約18分

あらすじ(AIが作成しました)

アメリカの家庭生活を支える特徴を「捨てる文化」として定義し、その背景にある経済的合理性や、資源化を可能にした高い技術力と精神力について論じる。物を修理せず買い替える生活習慣は、労働を通じて得られる時間と価値によって成立していると分析し、日本の生活改善や男女同権といった議論においても、物質的な基盤や地理的・社会的条件を無視した精神論は空論に過ぎないと指摘する。

中谷宇吉郎

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一 清潔・整頓・能率

日露戦争のとき、東北の田舎の一農夫でロシア側の捕虜になった男があった。本国に護送され、欧州各国を次ぎ次ぎと送られて、数年がかりで、やっと日本へ送還された。

当時の東北の一寒村で、欧州各国の現状を、数年がかりで見て来た男といえば、非常に珍しかったにちがいない。それでいろいろな連中が、その男のところへ話をききに行った。しかしその男から得られた知識というのは、「えらいもので、立派な大きい町があって、人間がいっぱいいた。次ぎの町へ行っても、立派な町で、えらい繁華なものだった。港はまたとても立派で、人間が大勢いた」というだけであった、という話を最近きいて、思わず苦笑した。

われわれのアメリカ見聞記というものもそれに類した点が、大いにあることであろう。この流儀で、アメリカ生活の便利さを鼓吹され、生活の改善などを唱えられたら、一番迷惑するのは国民である。現に北海道全土から、地方の有識夫人たちを札幌に集めて、真空掃除器の話をしたという噂をきいたこともある。案外なことが、実際に行われているものだと、大いに感心した。

現在アメリカ生活の特徴は、清潔、整頓、能率の三語につきる。そしてその基調は、物を捨てる点にあるように、私には思われる。このアメリカの文化の基調にあるものは、「捨てる文化」である。だからこれを日本へ適用することは、なかなかむつかしい。

二 捨てる文化

前に『花水木』の中の「アメリカの婦人生活」で、アメリカの家庭における台所のことを一寸書いたことがある。少し二重になるところもあるが、話の順序として今一度説明をしよう。

台所の正面には、真白なタイルの大きい流しがあり、その横には、焜爐が四つくらい並んだ黒いガス台がある。一方の壁には、白エナメルのぴかぴかした大きい電気冷蔵庫が立っていて、それと並んだガラス張りの食器棚には、皿とコップがきちんと積み重ねてある。白ペンキ塗りの戸棚が、別の壁に沿って作りつけになっていて、その中には貯蔵食料品がいっぱいはいっている。台所といっても、外に出ているものは、何も無いので、清潔と整頓の標本みたようになっている。

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