朝のヨット
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
曙色の空の下、少年は「自分自身を取り戻す」と告げてスナイプ型のヨットで一人、海へと漕ぎ出す。少女は彼との愛を信じながらも、なぜ自分といることよりも孤独を求めて海へ行くのかという問いに苦しむ。やがて天候が急変し、少年は海に消える。その後、幾艘ものヨットが彼を捜索する中、残された少女は海を見つめ、彼が抱えていた孤独への執着と、その愛の真意を問い続ける。空を飛ぶ鴎は、二人の心情を理解しながらも言葉を届けられず、ただ静かにその場を回り続ける。
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曙の色がほのかに東の空を染めて、間もなくその日の最初の太陽の光が、はるかな海面を錫箔のように輝かせた。洋上はまだ薄暗く、空と海の境もはっきりしなかったが、とにかく、海には朝が来ていた。
鴎が一羽、そのヨットの上空で、ゆるやかに翼を上下していた。鴎は、まるでどこまでも離れない決心をしたもののように、そのヨットと方向と速度を一つにして、朝空を動くかなりの風の中を翔びつづけた。
「行ってくるよ」
少年はスナイプ型のヨットに乗り、その舫綱を解きながら、少女に声をかけた。
「ねえ、つれて行って。私も」
「だめだったら」
少年は、怒ったような声音だった。
「海は、二人でたのしみに出かける場所じゃない。人間が、一人きりでぶつかりに行く相手なんだ」
「私よりも、海のほうが好きなの?」
少年はいらだち、神経質に眉をよせた。
「君といっしょにいると、僕は、ときどきもう一人の自分が、ひどく遠いところに置き去りにされているような気分になる。僕は、そのもう一人の自分を取りもどすために海へ行くんだ。……海は、人間を本当の一人きりにしてくれる場所だからね」
「どうして一人きりになりたがるの?」
「女にはわからないさ」
少年はきびしい顔で答え、ふいに白い歯を光らせて笑いかけた。そして、いった。
「君を好きだよ」
スナイプは、すでに岸を離れていた。白い帆を斜めに、群青の午後の海をすべって行くヨットを見て、少女は目に涙がうかんできた。だが、少女は笑顔のまま手を振りつづけた。急速にひろがる二人の距離、明るいその海面の広さを、そのまま、遠ざかる帆の速さで彼女の胸を裂き、ひろがる一つの疵口のように感じながら。……
少年はそして海に消えた。沿岸や離島の各所からの返電はすべて『到着ナシ』であった。急変した天候、突風と小さな竜巻とが、どうやら、その理由を語っていた。
少女は海を見ていた。しめっぽく肌に重い早朝の潮風の中を、幾艘かのヨットが、少年のスナイプを求めてはしっていた。