ある水車ごや(1)に、粉ひきのおじいさんが住んでいました。おじいさんのとこには、おかみさんもいず、子どももなく、若いものが三人奉公しているだけでした。この三人がここになん年かいてからのこと、ある日、おじいさんが若いものに、
「わたしも、としをとってな、ストーブのうしろへすわりたくなったよ。おまえがた、旅にでなさい。それでな、そのみやげにいちばんいい馬をもってきたものに、この粉ひき所をあげる。そのかわり、この小屋をもろうたものは、わたしを、死ぬまでやしのうてくれるのだぞ」といいました。
ところが、この若い者のうちで三番めのは下っぱのおいまわしで、あとの二人からは、わからずや扱いにされていて、これに粉ひきごやをせしめられるのは、ふたりとも感心しません。もっとも、この男のほうでも、べつに小屋をほしいともおもっていないのです。
とにかく、三人そろって旅に出たものですが、村をではずれると、兄弟子ふたりは、わからずやのハンスに、
「おまえは、ここにいるほうがよかろ。おまえなんざ、一生かかったって、駄馬一つ手にはいりゃしないよ」と言いました。そう言われても、ハンスはくっついて行きました。夜になって、三人は洞穴にたどりついたので、そのなかへはいって、ごろ寝をしました。
ちえのある二人は、ハンスがしょうたいなくねこむのを待って、自分たちだけ上へあがると、ハンスをおいてきぼりにして、どこかへ行ってしまいました。これで、二人はうまくしてやったと思ったのですが、だめ、だめ、そううまくいくわけのものではありません。
お日さまがのぼって、目をさましてみると、ハンスはどこかの深い洞あなの中にころがっていました。ハンスは、そこいらじゅうきょろきょろ見まわして、
「こりゃあ、よわった! どこにいるだあ」
と、大きな声をしました。それから起きあがると、手足をちょこまか動かしながら洞穴をはいあがって、森へはいって考えました、「おれときたら、こんなとこでほんとうの独りぼっち、だれにも相手にされやしない、どうしたら馬が手にはいるのやら」