1 / 2

猫が森のなかでお狐さまに行きあったことがありました。「きつねは、りこうで世慣れてる、世間でたっとばれてる」と、こう考えたので、猫は、あいそうよく狐に話しかけました。

「おきつねさま、今日は! ごきげんいかがですか、ご景気はいかがですか、せちがらい世の中になりましたが、おきつねさまは、どんなお生活をなすっておいでですか」

狐は、それはそれは威張りくさって、猫を、あたまのてっぺんから四足のさきまで、じろじろながめているだけで、なんとか返答をしてやったものかどうか、しばらくは見当がつきませんでした。やっとのことで狐の言うには、

「なにょう! きさまなんざ、ひげそうじのしみったれ野郎の、斑の、阿呆の、腹ぺこの、ねずみとりじゃねえか。なにょうかんげえたんでえ、このおれさまに向って、ごきげんいかがですかなんてぬかしゃがって、ふてえやつだ。きさま、なにをならった? きさまのできることは、いくつあるんだ?」

「わたくしにできることは、たった一つしかありません」と、猫は小さくなって答えました。

「どんなしわざだ?」と、狐がたずねました。

「犬どもがわたくしを追っかけてまいりますと、木の上へのぼって、じぶんを救うことができます」

「それっきりか」と、狐が言いました、「おれさまなんざ、できる事が百もある。そのうえ、おまけに智慧のいっぱいはいった袋をもってる。かわいそうなやつだなあ、おれについてこい、犬どもから逃げだす法をきさまにおしえてやる」

そのとき、かりゅうどが犬を四匹つれてやってきました。猫は、すばやく木の上へ跳びあがって、いく本もの太い枝やこんもりした葉が自分のからだをすっかりかくしてくれる梢へすわりこみました。

「ふくろの口をおほどきなさいな、ねえ、おきつねさま、ふくろの口をおほどきなさいな」と狐に呼びかけましたが、その時は、犬どもはもう狐をつかまえて、しっかりおさえつけていました。

ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimmの他の作品

おいしいおかゆ
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm
かわいそうな粉ひきの若いものと小猫
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm
おくさま狐の御婚礼
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm
子どもたちが屠殺ごっこをした話
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm
死神の名づけ親(第一話)
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm
死神の名づけ親(第二話)
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm
としよりのお祖父さんと孫
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm
わがままな子ども
ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm