青君の追跡
本文約18,900字 ・ 読了時間 約38分
あらすじ(AIが作成しました)
私立探偵のマグルトンは、百万長者殺害事件を防げなかった失態に深く沈んでいた。ある日、警部の助言で海辺の町に滞在するブラウン神父に相談を持ちかける。神父は砂浜で遊ぶ子供たちの自動人形の追っかけっこを観察し、マグルトンが語る事件の視点が固定観念により逆転している可能性を指摘する。神父は犯人と被害者の関係性を独自の視点で解き明かし、探偵に真実を示唆しながら子供たちと共に穏やかに浜辺を去る。
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よく晴れた午後の海辺の遊歩場を、マグルトン(だまされやすいアホウ者という意味)という気のめいるような名前の持主がその名にふさわしく憂欝そうに歩いていた。額には深い苦労のしわが馬蹄形にきざまれていた。そこで脚下の浜辺にちらばつてならんでいる大道芸人の群れがいくらそつちを見上げても喝采してもらえなかつた。ピエロ連中が、死んだ魚の真白な腹のように青白い、顔を上げてみせても、いつこうにこの男の元気はよくならなかつた。きたないすすで顔をすつかりねずみ色にしている黒人連中もやはり同じようにこの男の気分を明るくしてやるわけにはいかなかつた。失望した悲しい男であつた。深いしわのきざまれている禿げあがつた額以外もオドオドしてやつれたような感じだつた。そしてなんとなく陰気だが上品な顔立ちだけに、顔の中で唯一のこれ見よがしの装飾物がなおさら不似合いな感じだつた。それはピンと飛び出して逆立つている軍隊風の口ひげで、つけひげではないかと疑われそうなものであつた。実際、つけひげだという可能性もある。一方、もしつけひげでないとしても、無理にはやしたものだという可能性もある。単に自分の意思で、大急ぎではやしたのかもしれなかつた……それくらいその口ひげは、この男の個性の一部というより、むしろ仕事の一部だつたのである。
というのは実はマグルトン氏はささやかな私立探偵で、額の雲は職業上の大きなへまによるものだつたからである。ともかくそれは、単にこんな苗字を持つているということ以上に憂欝な、或る事と関係があつた。苗字については、むしろなんとなく、誇りにしていたかもしれないのである……というのはこの男は、マグルトン派(一六五一年頃ラドイック・マグルトンが創立して一時流行した宗派)の創立者と縁続きだと断言していた、貧しいながら慎しみ深い非国教派の家に生れたからである……あの宗派の創立者は人間の歴史上この名前を勇敢に名乗つて現われた唯一の人物であつた。