トンボの死
本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
夏休みのアルバイト先で出会った電器会社の青年と、喫茶店のウエイトレスの少女。青年は過酷な生い立ちを語り、少女は彼が飼うというトンボのエサとして、ハエの死骸と偽った麦茶の出ガラを渡し続ける。互いの境遇を理解しつつも、青年が語る虚構の中に二人の居場所を見出そうとする少女。しかし、青年が実は裕福な家庭の息子であると判明した時、偽りの日々は終わりを迎え、二人が共有していた儚い夢の終わりを描く。
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二人が知りあったのは、青年の夏休みのアルバイトからだった。彼女はそのビルの一階にある喫茶店のウエイトレスをしていた。そして青年は、同じビルの四階と五階にひろいフロアをもつ電器会社に、夏休みのあいだだけやとわれた給仕だということだった。
ときどき彼女が注文をうけたコーヒーやジュースを運んで行ったり、青年のほうでも喫茶店にやってきたりして、やがて彼女の仲間のウエイトレスたちは、彼女がちょいちょい青年のことを話題にしたがるのに気づいた。
「あの人はね、とっても可哀そうなの」
と、よく彼女はいった。
「なんでもお母さんが継母で、お父さんは死んじゃってて、弟や妹からもバカにされるし、親戚もだれもかまっちゃくれないんですって。でも苦学して、いっしょうけんめいアルバイトしながら夜間大学に行っているの。だけど、からだが疲れちゃって、やっぱり成績も悪いらしいのね。可哀そうなのよ、とっても」
相手がからかうと、彼女は真赤になって怒った。
「ひどいわ、ひどいわ。そんなんじゃないのよ。結婚だなんて、そんなこと私ができないこと、あんただって知ってるじゃない」
たしかに、彼女には母と病気の弟と、まだ小さな妹とがいた。一家のただ一人の働き手である彼女は、まだ十九だった。
夏休みが終ると、青年は電器会社には来なくなった。が、喫茶店にはときどき姿をみせ、彼女にコーヒーをおごられては、きまって小さな封筒に入ったなにかを受けとって帰って行くのだった。その青年の後ろ姿をぼんやりとみつめながら、彼女はいつもひどく幸福そうな表情をうかべていた。
「なにを渡しているの? いつも」
あるとき同僚の一人がきくと、彼女はニコニコして答えた。
「あれ? あれはね、トンボのエサ」
ふしぎがる同僚に、彼女は善良そのものの顔で説明するのだった。