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TORENDIA

非情な男

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

深夜の部屋で男が執筆する中、交際相手の女が突然現れ、男が書きかけの原稿を覗き見る。そこには蛾を冷酷に拒絶する描写が綴られていたが、女はそれを自身への殺意と誤認し、恐怖のあまり激昂して浴室へ逃げ込む。男は女の身勝手な誤解を解かぬまま、これを好機と捉え、女を部屋から追い出そうと画策する。創作の世界と現実の境界が曖昧な中で繰り広げられる、男女の奇妙な心理戦と決別の顛末を描く。

山川方夫

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🎧 非情な男 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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私は顔をあげた。やはり彼女だった。

窓ごしに彼女の眼が、哀願するように私をみつめている。

開けてくれというのだ。

黒い窓に、彼女は音をたてる。しだいに強く、執拗に、その音がつづいている。

彼女は身もだえをし、全身で私に合図している。

……だが、私には彼女を部屋に入れてやる気は毛頭ない。だんじてない。そんなことをしたら、かえって面倒なことになってしまうだけだ。

この深夜、ここまで単身でやってくるというのは、彼女にしたらたしかにたいへんな決意だっただろう。それはわかる。恐怖も躊躇もかなぐり捨て、彼女はむきだしの本能そのものに化し、ただ闇雲にそれに忠実になることに自分を賭け、夢中でここまでたどりついたのに違いないのだ。いずれにせよ、よっぽどのことだったとはわかる。……でも、それはいわば彼女の勝手、彼女のエゴイズムだ。私の知ったことではない。

私は目をつぶった。私には、彼女を徹底的に拒絶しぬくほかはないのだ。

明日、私はこの窓の下、硬いコンクリートの上に、冷たくなった彼女の死骸をみつけるだろう。

もはや動かないその彼女に、勤勉な真黒い昆虫たちが蝟集している。……かわいそうに、と私は口の中でいった。が、それも止むをえないことだ。彼女の美しさに驚嘆したのは、すでに遠い過去のことだ。私にとり、彼女はもう、ただうるさいだけの存在にすぎない。私には、彼女を見ごろしにすることしかできない。

非情といわれ、冷血とののしられてもいいのだ。仕方がない。私には私の世界がある。私は、それを彼女なんかにかきみだされたくはないのだ。

……彼女は知らないのだ。孤独な夜をのがれ、闇の寂寥から脱れようと、彼女が心おどらせてやっとたどりついたこの窓こそ、じつはもう一つのけっして終ることのない彼女の夜、永遠の彼女の闇につづく扉なのだ。――そこに、この私がいるかぎりは。

いい加減に、彼女はそれに気づくべきだ。彼女は、相手の選択をあやまった、というべきだろう。

――突然、彼は頬を打たれた。

びっくりして、彼は机から振りかえった。バス・タオルを胸に巻きつけた女が、唇をわななかせて彼を睨んでいる。

「いい気なひと! 呆れかえるわ」

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