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TORENDIA

にぎり飯

本文約7,200字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

三月九日夜半の空襲で被災した荒物屋の佐藤は、避難先で同じく家族とはぐれた若い女・千代子と出会う。生き延びた二人は互いの身の上を語り合い、やがて縁あって共に暮らすようになる。戦後の混乱の中で生活を営む佐藤と、妊娠した千代子の元に、ある日千代子の先夫と思われる男が現れる。二人は動揺しながらも、これまでの生活を守るために先夫の存在と向き合おうと決意するが、男の再来はないまま、季節は巡り夏を迎える。

永井荷風

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深川古石場町の警防団員であった荒物屋の佐藤は三月九日夜半の空襲に、やっとのこと火の中を葛西橋近くまで逃げ延び、頭巾の間から真赤になった眼をしばだたきながらも、放水路堤防の草の色と水の流を見て、初て生命拾いをしたことを確めた。

しかしどこをどう逃げ迷って来たのか、さっぱり見当がつかない。逃げ迷って行く道すがら人なだれの中に、子供をおぶった女房の姿を見失い、声をかぎりに呼びつづけた。それさえも今になっては何処のどの辺であったかわからない。夜通し吹荒れた西南の風に渦巻く烟の中を人込みに揉まれ揉まれて、後へも戻れず先へも行かれず、押しつ押されつ、喘ぎながら、人波の崩れて行く方へと、無我夢中に押流されて行くよりしようがなかったのだ。する中人込みがすこしまばらになり、息をつくのと、足を運ぶのが大分楽になったと思った時には、もう一歩も踏出せないほど疲れきっていた。そのまま意久地なくその場に蹲踞んでしまうと、どうしても立上ることができない。気がつくと背中に着物や食料を押込められるだけ押込んだリクサクを背負っているので、それを取りおろし、よろけながら漸く立上り、前後左右を見廻して、佐藤はここに初て自分のいる場所の何処であるかを知ったのである。

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