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TORENDIA

枯菊の影

本文約6,500字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

肺炎に罹患し寝込んだ主人公は、高熱による意識の混濁の中で、子供時代の病気と親への甘え、学生時代の友情や将来への漠然とした夢を追想する。やがて役人として働く現在の生活や死の恐怖、軍人への嫌悪感、かつて抱いた画家への憧れといった様々な記憶が脳裏を駆け巡る。苦しい幻覚や死の予感に翻弄されながらも、妻の献身的な看病と無邪気な子供の姿に救われ、静かに更けゆく冬の日の光の中で現実へと繋ぎ止められる様子を描く。

寺田寅彦

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少し肺炎の徴候が見えるようだからよく御注意なさい、いずれ今夜もう一遍見に来ますからと云い置いて医者は帰ってしまった。

妻は枕元の火鉢の傍で縫いかけの子供の春着を膝へのせたまま、向うの唐紙の更紗模様をボンヤリ見詰めて何か考えていたが、思い出したように、針を動かし始める。唐縮緬の三つ身の袖には咲き乱れた春の花車が染め出されている。嬢やはと聞くと、さっきから昼寝と答えたきり、元の無言に帰る。火鉢の鉄瓶の単調なかすかな音を立てているのだけが、何だか心強いような感じを起させる。眼瞼に蔽いかかって来る氷袋を直しながら、障子のガラス越しに小春の空を見る。透明な光は天地に充ちてそよとの風もない。門の垣根の外には近所の子供が二、三人集まって、声高に何か云っているが、その声が遠くのように聞える。枕につけた片方の耳の奥では、動脈の漲る音が高く明らかに鳴っている。

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