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TORENDIA

ある探偵事件

本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

縁側に現れた白猫の出自を巡る推論から、不確かな証拠を基に結論を急ぐ人間の心理や論理の錯誤を綴る。著者自身の飼い猫と近所の家の猫との関係性を、新聞記事や魚屋の証言といった断片的な情報から分析する過程を通じ、探偵小説の手法や刑事事件における誤認の危うさを考察する。さらには、自身の頭に生じた不可解な錯覚についても触れ、確実なデータに基づかない判断が陥る陥穽を科学的な視点から浮き彫りにする一編である。

寺田寅彦

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🎧 ある探偵事件 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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数年前に「ボーヤ」と名づけた白毛の雄猫が病死してから以来しばらくわが家の縁側に猫というものの姿を見ない月日が流れた。先年、犬養内閣が成立したとおなじ日に一羽のローラーカナリヤが迷い込んで来たのを捕えて飼っているうち、ある朝ちょっとの不注意で逃がしてしまった。そのおなじ日の夕方帰宅して見ると茶の間の真中に一匹の真白な小猫が坐り込んですましてお化粧をしていた。家人に聞いてみると、どこからともなく入り込んで来て、そうして、すっかりわがもの顔に家中を歩き廻っているそうである。それが不思議なことには死んだボーヤの小さい時とほとんどそっくりでただ尻尾が長くてその尻尾に雉毛の紋様があるだけの相違である。どこかの飼猫の子が捨てられたか迷って来たかであるに相違ないが、とにかくそのままに居着いてしまって「白」と命名された。珍しく鷹揚な猫で、ある日犬に追われて近所の家の塀と塀との間に遁げ込んだまま、一日そこにしゃがんでいたのを、やっと捜し出して連れて来たこともあった。スマラグド色の眼と石竹色の唇をもつこの雄猫の風貌にはどこかエキゾチックな趣がある。

死んだ白猫の母は宅の飼猫で白に雉毛の斑点を多分にもっていたが、ことによると前の白猫と今度の「白」とは父親がおなじであるか、ことによると「白」が「ボーヤ」の子であるかもしれないと思われた。それについて思い当るのは、一と頃ときどき宅へ忍び込んで来る猫の中に一匹のアンゴラ種らしい立派な白猫があった、それが、もしかすると「白」の父親か祖父ではないかと思われるのであった。

つい近ごろになってある新聞にいろいろなペットの話が連載されているうちに知名の某家の猫のことが出ていて、その三匹の猫の写真が掲載されていた。そのうちの一匹がどうも前述のいわゆるアンゴラに似ているように思われた。これだけでは何も問題にはならないが、しかしその某家と同姓の家が宅から二、三町のところにあるから、そこで一つの問題が成立ったのである。その問題は型式的には刑事探偵が偶には出くわす問題とおなじようなものかと思われた。

問題を分析するとつぎのようになる。

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