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TORENDIA

「珊瑚集」解説

本文約2,700字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

永井荷風の抒情詩を培うために愛誦され、訳出された海外詩集である。本書は、ボードレールやヴェルレーヌらの詩篇を収め、荷風が自己の感情と文辞を洗練させるために試みた訳業の軌跡を綴る。執筆当時、荷風自身の詩情の源泉となった海外詩人への傾倒や、翻訳を通じた詩法への接近を論じるほか、各詩人に対する荷風の詩的観点や選定の経緯を詳述する。荷風自身の厳密な校正を経て、散文作品とは異なる詩人としての側面を伝える貴重な一巻である。

佐藤春夫

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荷風先生は毅然たる現実主義精神を抱いた散文作家であると同時に、一面には嫋々たる抒情詩人である。この両面を解して後はじめて先生が真面目に接し得られるというべきである。先生のすべての傑作はみなこの両面がさまざまな釣合を保ちながら渾然融和の妙趣を発揮している。いずれも散文精神の伴奏として陰翳のような役割をしている先生の詩情が、詩の形をとって真正面から打ち出されたものがない代りに、先生がその詩情を培い詩魂を鍛冶されるために常に読誦される海外の詩篇を、愛誦のあまり訳出されたものの一巻がある。この珊瑚集が即ちそれである。

集ははじめ大正二年四月下浣、ボードレエルに関する四葉ヴ※[#小書き片仮名ヱ、127-9]ルレエンに関する三葉の外レニェエの肖像以下数葉合せて十三葉の写真版を挿画とし、赤いマーブル紙をヒラに赤いクロースを背にはぎ分けた華麗な装釘で発売された。版元は籾山書店である。後年春陽堂文庫がこれを収めて普及版とした外、近ごろ第一書房が覆刻を新装上梓した。

本書は籾山版を底本として第一書房の新版を参酌の上その改訂に従い、また「菊花の歌」「あまりに泣きぬ若き時」の二篇をも加えていささか最後に出た版本たるの意を用いた。先生もこれを諒せられて御自身進んで厳密な校正の筆を執られた間にテニヲハ振仮名行間のアキなど三四の瑣細ながら重要な加筆改訂を賜わった。

書名の由来は籾山版にある序文に明であるがこの序は旧文の意に満たぬものが多いという理由で先生がこれを削除せられたから、先生の意を体してここにも引用に及ばない。

篇中の諸作の初出は、多く「スバル」「三田文学」「アルス」あるいは「ザンボア」などの諸誌であったかとおぼつかないながらに記憶している。いずれにせよ、先生が三十歳を余り多くは越えさせられなかった当時の業績である。当年のわが詩壇は『思ひ出』の北原白秋、『廃園』の三木露風『道程』の高村光太郎氏などが活気を呈していた。先生は白秋が一詩の竹枝の調を帯びたものに対して「紅茶の後」で推賞された。先生の詩と詩壇とに対する関心を見るべきである。

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