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TORENDIA

ネクタイとステッキ

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

三千本のネクタイを所持しているという世間の噂に対し、事実との乖離を語りつつ、自身の持ち物や蒐集に対する考え方を綴る随筆。作者は実際の所有本数やステッキに費やした額を具体的に明かし、自身の書いた小説が誤読されゴシップを招いた経緯を説明する。物品へのこだわりは個人の神経の表れであり、身装の好みは自由であると主張しながら、芸術家としての自己の存在や生活のあり方を自問自答する姿を描く。

佐藤春夫

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🎧 ネクタイとステッキ / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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ネクタイやステッキ。僕は一向そんな代物の愛好家ではない。そんな者に僕を仕立てゝしまつたのは、天下のゴシップである。

ゴシップによると、僕は三千本のネクタイを持つてゐるさうである! まあ考へても見たまへ。一本五円と見つもつて、三千本で一万五千円也。僕は不幸にもそれほど徹底的に非常識にはなれない。ネクタイ三千本は実に白髪三千丈のたぐひで、たくさんといふことのつもりなのかも知れない。それでは僕は事実に於て一たい、何本ぐらゐそれを持つてゐるであらうか。数へて見た事もないがまづ、せいぜい三十本か四十本。尤も僕は何品によらず蒐集する趣味は一向にない。――なかつたと言つた方がいゝかも知れない。といふのは近ごろ少し、蒐集家といふものゝ心持がわかつて来たから。

それにしても僕は蒐集するよりは放散する事の方により多くの興味がある。だから、僕はネクタイでも可なり放散した。つまり、人が欲しいといふとくれてやつたりしたものも少くない。しかし、それを大切に一々保存して置いたとしてもおそらく三百本とはあるまい。僕は十五年間、洋服を着用してゐる。十五年間に三百本のネクタイを買ふことは別に道楽といふ程のものではなからうではないか。

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