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TORENDIA

あの頃の自分の事

本文約15,600字 ・ 読了時間 約32分

あらすじ(AIが作成しました)

四五年前の自らの生活や周囲の出来事をありのままに綴る。大学で講義を受け、友人たちと同人雑誌の執筆について語り、芝居見物に足を運び、徹夜明けで原稿を執筆する友人の下宿を訪ねるなど、日常の風景を淡々と描写する。本書は、青春期の生活と思索を回顧し、当時抱いた友情や苦悩、心の機微を、事実を基にしたエピソードの連なりを通して描き出す。

芥川龍之介

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以下は小説と呼ぶ種類のものではないかも知れない。さうかと云つて、何と呼ぶべきかは自分も亦不案内である。自分は唯、四五年前の自分とその周囲とを、出来る丈こだはらずに、ありのまま書いて見た。従つて自分、或は自分たちの生活やその心もちに興味のない読者には、面白くあるまいと云ふ懸念もある。が、この懸念はそれを押しつめて行けば、結局どの小説も同じ事だから、そこに意を安んじて、発表する事にした。序ながらありのままと云つても、事実の配列は必しもありのままではない。唯事実そのものだけが、大抵ありのままだと云ふ事をつけ加へて置く。

一

十一月の或晴れた朝である。久しぶりに窮屈な制服を着て、学校へ行つたら、正門前でやはり制服を着た成瀬に遇つた。こつちで「やあ」と云ふと、向うでも「やあ」と云つた。一しよに角帽を並べて、法文科の古い煉瓦造の中へはいつたら、玄関の掲示場の前に、又和服の松岡がゐた。我々はもう一度「やあ」と云つた。

立ちながら三人で、近々出さうとしてゐる同人雑誌『新思潮』の話をした。それから松岡がこの間、珍しく学校へ出て来て、西洋哲学史か何かの教室へはいつたが、何時まで待つても、先生は勿論学生も来る容子がない。妙だと思つて、外へ出て小使に尋いて見たら、休日だつたと云ふ話をした。彼は電車へ乗る心算で、十銭持つて歩きながら、途中で気が変つて、煙草屋へはいると、平然として「往復を一つ」と云つた人間だからこんな事は家常茶飯である。その中に、傴僂のやうな小使が朝の時間を知らせる鐘を振つて、大急ぎで玄関を通りすぎた。

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