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TORENDIA

霜夜

本文約600字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

十二時の鐘を合図に仕事を終え、机を片づける夜のひととき。二階から降りた先で、一人で黙々と古い綿をのばす六十八歳の伯母に出会う。暗い後架で排泄を済ませ、竹が静まり返る寒夜の空気の中で詠まれた句とともに、霜夜の記憶を綴る。

芥川龍之介

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🎧 霜夜 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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霜夜の記憶の一つ。

いつものやうに机に向つてゐると、いつか十二時を打つ音がする。十二時には必ず寝ることにしてゐる。今夜もまづ本を閉ぢ、それからあした坐り次第、直に仕事にかかれるやうに机の上を片づける。片づけると云つても大したことはない。原稿用紙と入用の書物とを一まとめに重ねるばかりである。最後に火鉢の火の始末をする。はんねらの瓶に鉄瓶の湯をつぎ、その中へ火を一つづつ入れる。火は見る見る黒くなる。炭の鳴る音も盛んにする。水蒸気ももやもや立ち昇る。何か楽しい心もちがする。何か又はかない心もちもする。床は次の間にとつてある。次の間も書斎も二階である。寝る前には必ず下へおり、のびのびと一人小便をする。今夜もそつと二階を下りる。家族の眼をさまさせないやうに、出来るだけそつと二階を下りる。座敷の次の間に電燈がついてゐる。まだ誰か起きてゐるなと思ふ。誰が起きてゐるのかしらとも思ふ。その部屋の外を通りかかると、六十八になる伯母が一人、古い綿をのばしてゐる。かすかに光る絹の綿である。

「伯母さん」と云ふ。「まだ起きてゐたの?」と云ふ。「ああ、今これだけしてしまはうと思つて。お前ももう寝るのだらう?」と云ふ。後架の電燈はどうしてもつかない。やむを得ず暗いまま小便をする。後架の窓の外には竹が生えてゐる。風のある晩は葉のすれる音がする。今夜は音も何もしない。唯寒い夜に封じられてゐる。

薄綿はのばし兼ねたる霜夜かな

完

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