Mensura Zoili
本文約4,000字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
船のサルーンで退屈な時間を過ごす「僕」は、向かいの席に座る博学な男と出会う。男は、文学や絵画の価値を数値化する文明の利器「MENSURAZOILI(価値測定器)」が存在するゾイリア共和国について語り、日本で発表された小説の低評価を告げる。芸術を機械的に測定し評価する奇妙な国をめぐる議論と、突然の船の揺れとともに訪れる現実への帰還を描く幻想的な作品。
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僕は、船のサルーンのまん中に、テーブルをへだてて、妙な男と向いあっている。――
待ってくれ給え。その船のサルーンと云うのも、実はあまり確かでない。部屋の具合とか窓の外の海とか云うもので、やっとそう云う推定を下しては見たものの、事によると、もっと平凡な場所かも知れないと云う懸念がある。いや、やっぱり船のサルーンかな。それでなくては、こう揺れる筈がない。僕は木下杢太郎君ではないから、何サンチメートルくらいな割合で、揺れるのかわからないが、揺れる事は、確かに揺れる。嘘だと思ったら、窓の外の水平線が、上ったり下ったりするのを、見るがいい。空が曇っているから、海は煮切らない緑青色を、どこまでも拡げているが、それと灰色の雲との一つになる所が、窓枠の円形を、さっきから色々な弦に、切って見せている。その中に、空と同じ色をしたものが、ふわふわ飛んでいるのは、大方鴎か何かであろう。
さて、僕の向いあっている妙な男だが、こいつは、鼻の先へ度の強そうな近眼鏡をかけて、退屈らしく新聞を読んでいる。口髭の濃い、顋の四角な、どこかで見た事のあるような男だが、どうしても思い出せない。頭の毛を、長くもじゃもじゃ生やしている所では、どうも作家とか画家とか云う階級の一人ではないかと思われる。が、それにしては着ている茶の背広が、何となく釣合わない。
僕は、暫く、この男の方をぬすみ見ながら、小さな杯へついだ、甘い西洋酒を、少しずつなめていた。これは、こっちも退屈している際だから、話しかけたいのは山々だが、相手の男の人相が、甚だ、無愛想に見えたので、暫く躊躇していたのである。
すると、角顋の先生は、足をうんと踏みのばしながら、生あくびを噛みつぶすような声で、「ああ、退屈だ。」と云った。それから、近眼鏡の下から、僕の顔をちょいと見て、また、新聞を読み出した。僕はその時、いよいよ、こいつにはどこかで、会った事があるのにちがいないと思った。
サルーンには、二人のほかに誰もいない。