虎の話
本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
師走の夜、父は五歳の男の子にせがまれ、炬燵の中で虎にまつわる話を語る。酔い潰れた喇叭卒が虎に襲われそうになりながらも窮地を脱する話、獲物を狙う虎が崖に飛び移ろうとして失敗し、哀れな様子を見せる話、そして三匹の子虎を育てる虎の親子愛に満ちた話。子供に繰り返し虎の物語をねだられ、父は様々な空想や伝説を即興で紡ぎ出す。やがて子供が眠りにつくまで、二人の温かな親子の対話を通して虎にまつわる情景が描かれる。
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師走の或夜、父は五歳になる男の子を抱き、一しよに炬燵へはひつてゐる。
子 お父さん何かお話しをして!
父 何の話?
子 何でも。……うん、虎のお話が好いや。
父 虎の話? 虎の話は困つたな。
子 よう、虎の話をさあ。
父 虎の話と。……ぢや虎の話をして上げよう。昔、朝鮮のらつぱ卒がね、すつかりお酒に酔つ払らつて、山路にぐうぐう寝てゐたとさ。すると顔が濡れるもんだから、何かと思つて目をさますと、いつの間にか大きい虎が一匹、尻つ尾の先に水をつけてはらつぱ卒の顔を撫でてゐたとさ。
子 どうして?
父 そりやらつぱ卒が酔つぱらつてゐたから、お酒つ臭い臭ひをなくした上、食べることにしようと思つたのさ。
子 それから?
父 それかららつぱ卒は覚悟をきめて、力一ぱい持つてゐたらつぱを虎のお尻へ突き立てたとさ。虎は痛いのにびつくりして、どんどん町の方へ逃げ出したとさ。
子 死ななかつたの?
父 そのうちに町のまん中へ来ると、とうとうお尻の傷の為に倒れて死んでしまつたとさ。けれどもお尻に立つてゐたらつぱは虎の死んでしまふまで、ぶうぶう鳴りつづけに鳴つてゐたとさ。
子 (笑ふ)らつぱ卒は?
父 らつぱ卒は大へん褒められて虎退治の御褒美を貰つたつて……さあ、それでおしまひだよ。
子 いやだ。何かもう一つ。
父 今度は虎の話ぢやないよ。
子 ううん、今度も虎のお話をして。
父 そんなに虎の話ばかりありやしない。ええと、何かなかつたかな?……ああ、ぢやもう一つして上げよう。これも朝鮮の猟師がね、或山奥へ狩をしに行つたら、丁度目の下の谷底に虎が一匹歩いてゐたとさ。
子 大きい虎?
父 うん、大きい虎がね。猟師は好い獲物だと思つて早速鉄砲へ玉をこめたとさ。
子 打つたの?
父 ところが打たうとした時にね、虎はいきなり身をちぢめたと思ふと、向うの大岩に飛びあがつたとさ。けれども宙へ躍り上つたぎり、生憎大岩へとどかないうちに地びたへ落ちてしまつたとさ。
子 それから?
父 それから虎はもう一度もとの処へ帰つて来た上、又大岩へ飛びかかつたとさ。
子 今度はうまく飛びついた?