小さいアルバム
本文約7,900字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
酒も金もなく、文学論にも飽きた語り手が、来客に自身の過去から現在までを写した写真を見せる。高等学校時代の同級生に囲まれた写真や、大学時代の撮影所での記念写真、そして家族を連れて散歩する最近の姿などを順に辿りながら、それぞれの折に抱いた自意識や滑稽な心情を綴る。窮余の一策として持ち出された古いアルバムを通じ、己の不格好な半生と現在に流れる心境を静かに描き出す一編。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
せっかくおいで下さいましたのに、何もおかまい出来ず、お気の毒に存じます。文学論も、もう、あきました。なんの事はない、他人の悪口を言うだけの事じゃありませんか。文学も、いやになりました。こんな言いかたは、どうでしょう。「かれは、文学がきらいな余りに文士になった。」
本当ですよ。もともと戦いを好まぬ国民が、いまは忍ぶべからずと立ち上った時、こいつは強い。向うところ敵なしじゃないか。君たちも、も少し、文学ぎらいになったらどうだね。真に新しいものは、そんなところから生れて来るのですよ。
まあ私の文学論は、それだけで、あとは、鳴かぬ蛍、沈黙の海軍というところです。
どうも、せっかく遊びにおいで下さったのに、こんなに何も、あいそが無くては、私のほうでしょげてしまいます。お酒でもあるといいんだけど、二、三日前に配給されたお酒は、もう、その日のうちに飲んでしまって、まことに生憎でした。どこかへ飲みに出たいものですね。ところが、これも生憎で、あははは、――無いんだ。今月はお金を使いすぎて、蟄居の形なのです。本を売ってまで飲みたくはないし、まあ、がまんして、お茶でも飲んで、今夜これからどうして遊ぶか、ゆっくり考えてみましょうか。
君は遊びに来たのでしょう? どこへ行っても軽蔑されるし、懐中も心細いし、Dのところへでも行ったら、あるいは気が晴れるかも知れん、と思ってやって来たのでしょう? 光栄な事だ。そんなに、たよりにされて、何一つ期待に添わぬというのも、むごい話だ。