みみずく通信
本文約5,800字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
講演のため新潟を訪れた作家が、現地での生徒たちとの交流や、日本海の風景、食事を報告する様子を綴る。東京から離れ、慣れない演説の大任を終えた彼は、海辺での散策や夕食会を通じて若者たちと対話を行う。自身の作家としての考えや青春に対する思いを率直に語る姿が描かれる。任務を終えた安堵感とともに、今後の旅程への期待を記した書簡形式の作品であり、新潟の情緒や人間味あふれる交流を記録している。
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無事、大任を果しました。どんな大任だか、君は、ご存じないでしょう。「これから、旅に出ます。」とだけ葉書にかいて教え、どこへ何しに行くのやら君には申し上げていなかった。てれくさかったのです。また、君がそれを知ったら、れいの如く心配して何やらかやら忠告、教訓をはじめるのではないかと思い、それを恐れて、わざと目的は申し上げずに旅に出ました。先日、私の甘い短篇小説が、ラジオで放送された時にも、私は誰にも知られないように祈っていました。ことにも、君に聞かれては、それこそ穴あらば這入らなければならぬ気持でした。なかなか、あまい小説でした。私はいつも、けちけちしている癖に、ざらざら使い崩すたちなので、どうしてもお金が残りません。一文おしみの百失いとでもいうものなのでしょうか。しかも、また、貧乏に堪える力も弱いので、つい無理な仕事も引受けます。お金が、ほしくなるのです。ラジオ放送用の小説なども、私のような野暮な田舎者には、とても、うまく書けないのが、わかっていながら、つい引受けてしまいます。田舎者の癖に、派手なものに憧れる、あの哀れな弱点もあるのでしょう。先日のラジオは、君には聞かせたくないと思い、君に逢ってもその事に就いては一言も申し上げず、ひた隠しに隠していたのですが、なんという不運、君が上野のミルクホオルで偶然にそれを耳にしたという事で、翌日ながながと正面切った感想文を送ってよこしたので、私は、まことに赤面、閉口いたしました。こんどの旅行に就いても、私は誰にも知らせず、永遠に黙しているつもりでいたのですが、根が小心の私には、とても隠し切る事の出来そうもないので、かえって今は洗いざらい、この旅行の恥を君に申し上げてしまうのです。そのほうが、いいのだ。あとで私も、さっぱりするでしょう。隠していたって、いつかは必ずあらわれる。ラジオの時だって、そうでした。いさぎよい態度を執る事に致しましょう。私は、いま新潟の旅館に居ります。一流の旅館のようであります。いま私の居る此の部屋も、この旅館で一番いい部屋のようであります。私は、東京の名士の扱いを受けて居ります。私は、きょうの午後一時から、新潟の高等学校で、二時間ちかくの演説をしました。大任とは、その事でした。私は、どうやら、大任を果しました。そうしていま宿へ帰って、君へ詐らぬ報告をしたためているところなのです。