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TORENDIA

ロマネスク

本文約18,700字 ・ 読了時間 約38分

あらすじ(AIが作成しました)

鍬形太郎は三歳にして山へ歩いて行き、村を潤す予言を残すなど不思議な能力を持つ。一方、次郎兵衛は喧嘩に勝つための修行を積み、どっしりとした風貌の火消し頭となる。ある日、江戸の居酒屋で太郎と次郎兵衛は、三郎と出会う。境遇の異なる三人は酒を酌み交わすうちに、自分たちは兄弟であり芸術家であるという虚構の絆を結び、世間に向けて独自の生き方を提示しようと情熱的に語り合う様子を描く。

太宰治

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仙術太郎

むかし津軽の国、神梛木村に鍬形惣助という庄屋がいた。四十九歳で、はじめて一子を得た。男の子であった。太郎と名づけた。生れるとすぐ大きいあくびをした。惣助はそのあくびの大きすぎるのを気に病み、祝辞を述べにやって来る親戚の者たちへ肩身のせまい思いをした。惣助の懸念はそろそろと的中しはじめた。太郎は母者人の乳房にもみずからすすんでしゃぶりつくようなことはなく、母者人のふところの中にいて口をたいぎそうにあけたまま乳房の口への接触をいつまででも待っていた。張子の虎をあてがわれてもそれをいじくりまわすことはなく、ゆらゆら動く虎の頭を退屈そうに眺めているだけであった。朝、眼をさましてからもあわてて寝床から這い出すようなことはなく、二時間ほどは眼をつぶって眠ったふりをしているのである。かるがるしきからだの仕草をきらう精神を持っていたのであった。三歳のとき、鳥渡した事件を起し、その事件のお蔭で鍬形太郎の名前が村のひとたちのあいだに少しひろまった。それは新聞の事件でないゆえ、それだけほんとうの事件であった。太郎がどこまでも歩いたのである。

春のはじめのことであった。夜、太郎は母者人のふところから音もたてずにころがり出た。ころころと土間へころげ落ち、それから戸外へまろび出た。戸外へ出てから、しゃんと立ちあがったのである。惣助も、また母者人も、それを知らずに眠っていた。

満月が太郎のすぐ額のうえに浮んでいた。満月の輪廓はにじんでいた。めだかの模様の襦袢に慈姑の模様の綿入れ胴衣を重ねて着ている太郎は、はだしのままで村の馬糞だらけの砂利道を東へ歩いた。ねむたげに眼を半分とじて小さい息をせわしなく吐きながら歩いた。

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