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TORENDIA

放浪

本文約23,400字 ・ 読了時間 約47分

あらすじ(AIが作成しました)

幼くして母を失い、継母に疎まれる順平は、唯一の支えである兄の文吉と厳しい生活を送る。父の死後、親戚の家に預けられるが、理不尽な扱いの中で順平の孤独と困窮は深まっていく。やがて順平は放浪の果てに罪を犯し刑務所へ入る。出所後、かつての知人を求めて大阪へ戻るが、変貌した街で己の居場所を見失う。過去の記憶と現状の狭間で、順平はかつての父と同じように、あてもなく立ち尽くす姿を描く物語。

織田作之助

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一

大阪は二ツ井戸「まからんや」呉服店の番頭は現糞のわるい男や、云うちゃわるいが人殺しであると、在所のお婆は順平にいいきかせた。

――「まからんや」は月に二度、疵ものやしみつきや、それから何じゃかや一杯呉服物を一反風呂敷にいれ、南海電車に乗り、岸和田で降りて二里の道あるいて六貫村へ着物売りに来ると、きまって現糞わるく雨が降って、雨男である。三年前にも来て降らせた。よりによって順平のお母が産気づいて、例もは自転車に乗って来るべき産婆が雨降っているからとて傘さして高下駄はいてとぼとぼ辛気臭かった。それで手違うて、順平は産れたけれど、母親はとられた。兄の文吉は月たらずゆえきつい難産であつたけれど、その時ばかりは天気運が良くて……。

聴いて順平は何とも感じなかった。そんな年でもなく、寝床にはいって癖で足の親指と隣の指をすり合わせていると、きまってこむら返りして痛く、またうっとりした。度重なるうち、下腹が引きつるような痛みに驚いたが、お婆は脱腸の気だとは感付かなかった。寝いると小便をした。お婆は粗相を押えるために夜もおちおち寝ず、濡れていると敲き起し、のう順平よ、良う聴きなはれや。そして意地わるい快感で声も震え、わりや継子やぞ。

泉北郡六貫村よろずや雑貨店の当主高峰康太郎はお婆の娘のおむらと五年連れ添い、文吉、順平と二人の子までなしたる仲であったが、おむらが産で死ぬと、これ倖いと後妻をいれた。これ倖いとはひょっとすると後妻のおそでの方で、康太郎は評判のおとなしい男で財産も少しはあった。兄の文吉は康太郎の姉聟の金造に養子に貰われたから良いが、弟の順平は乳飲子で可哀相だとお婆が引き取り、ミルクで育てている。お婆が死ねば順平は行きどころが無いゆえ継母のいる家へ帰らねばならず、今にして寝小便を癒して置かねば所詮いじめられる。後妻には連子があり、おまけに康太郎の子供も産んで、男の子だ。

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