夫婦善哉
本文約30,600字 ・ 読了時間 約62分
あらすじ(AIが作成しました)
頼りない放蕩者の柳吉と、彼を支える芸者あがりの蝶子。大阪を舞台に、二人の、腐れ縁のような夫婦の日々を描く、織田作之助の代表作。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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年中借金取が出はいりした。節季はむろんまるで毎日のことで、醤油屋、油屋、八百屋、鰯屋、乾物屋、炭屋、米屋、家主その他、いずれも厳しい催促だった。路地の入り口で牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉、蒟蒻、紅生姜、鯣、鰯など一銭天婦羅を揚げて商っている種吉は借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉をこねる真似した。近所の小供たちも、「おっさん、はよ牛蒡揚げてんかいナ」と待てしばしがなく、「よっしゃ、今揚げたアるぜ」というものの擂鉢の底をごしごしやるだけで、水洟の落ちたのも気付かなかった。
種吉では話にならぬから素通りして路地の奥へ行き種吉の女房に掛け合うと、女房のお辰は種吉とは大分違って、借金取の動作に注意の目をくばった。催促の身振りが余って腰掛けている板の間をちょっとでもたたくと、お辰はすかさず、「人さまの家の板の間たたいて、あんた、それでよろしおまんのんか」と血相かえるのだった。「そこは家の神様が宿ったはるとこだっせ」
芝居のつもりだがそれでもやはり興奮するのか、声に泪がまじる位であるから、相手は驚いて、「無茶いいなはんナ、何も私はたたかしまへんぜ」とむしろ開き直り、二三度押問答のあげく、結局お辰はいい負けて、素手では帰せぬ羽目になり、五十銭か一円だけ身を切られる想いで渡さねばならなかった。それでも、一度だけだが、板の間のことをその場で指摘されると、何ともいい訳けのない困り方でいきなり平身低頭して詫びを入れ、ほうほうの体で逃げ帰った借金取があったと、きまってあとでお辰の愚痴の相手は娘の蝶子であった。