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TORENDIA

旅への誘い

本文約5,700字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

洋裁学院教師の喜美子は、妹の道子を大学へ通わせるために自身の青春を捧げ、困窮の中で過酷な労働を続けた。道子の卒業後、喜美子は病に倒れて亡くなる。姉の死後、かつての知人から亡き姉宛てに届いた手紙を知った道子は、姉の秘められた想いを知る。道子は姉の遺志を継ぐ決意で南方派遣の日本語教師を志願し、上京する。駅で偶然、手紙の主である青年の出征を見送った道子は、姉の面影と共に異境の地へ向かう決意を固める。

織田作之助

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🎧 旅への誘い / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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喜美子は洋裁学院の教師に似合わず、年中ボロ服同然のもっさりした服を、平気で身につけていた。自分でも吹きだしたいくらいブクブクと肥った彼女が、まるで袋のようなそんな不細工な服をかぶっているのを見て、洋裁学院の生徒たちは「達磨さん」と称んでいた。

しかし、喜美子はそんな綽名をべつだん悲しみもせず、いかにも達磨さんめいたくりくりした眼で、ケラケラと笑っていた。

「達磨は面壁九年やけど、私は三年の辛抱で済むのや。」

三年経てば、妹の道子は東京の女子専門学校を卒業する、乾いた雑布を絞るような学資の仕送りの苦しさも、三年の辛抱で済むのだと、喜美子は自分に言いきかせるのであった。

両親をはやく失って、ほかに身寄りもなく、姉妹二人切りの淋しい暮しだった。姉の喜美子はどちらかといえば醜い器量に生れ、妹の道子は生れつき美しかった。妹の道子が女学校を卒業すると、喜美子は、「姉ちゃん、私ちょっとも女専みたいな上の学校、行きたいことあれへん。私かて働くわ。」という道子を無理矢理東京の女子専門学校の寄宿舎へ入れ、そして自分は生国魂神社の近くにあった家を畳んで、北畠のみすぼらしいアパートへ移り、洋裁学院の先生になったその日から、もう自分の若さも青春も忘れた顔であった。

妹の学資は随分の額だのに、洋裁学院でくれる給料はお話にならぬくらい尠く、夜間部の授業を受け持ってみても追っつかなかった。朝、昼、晩の三部教授の受持の時間をすっかり済ませて、古雑布のようにみすぼらしいアパートに戻って来ると、喜美子は古綿を千切って捨てたようにくたくたに疲れていたが、それでも夜更くまで洋裁の仕立の賃仕事をした。月に三度の公休日にも映画ひとつ見ようとせず、お茶ひとつ飲みにも行かず、切り詰め切り詰めた一人暮しの中で、せっせと内職のミシンを踏み、急ぎの仕立の時には徹夜した。徹夜の朝には、誰よりも早く出勤した。

そして、自分はみすぼらしい服装に甘んじながら、妹の卒業の日をまるで泳ぎつくように待っているうちに、さすがに無理がたたったのか、喜美子は水の引くようにみるみる痩せて行った。

「こんな痩せた達磨さんテあれへんわ。」

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