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TORENDIA

博士問題とマードック先生と余

本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

文学博士の称号を辞退した「余」のもとに、二十年前に英語や歴史を学んだ旧師マードック先生から突然の手紙が届く。先生は自身の著作『日本歴史』における公平無私な姿勢を説き、自らの信念を貫こうとする余の態度を支持する。本作は、疎遠であった恩師との再会を機に、真の学問的良心と教育者の生き方を綴る随筆である。

夏目漱石

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余が博士に推薦されたという報知が新聞紙上で世間に伝えられたとき、余を知る人のうちの或者は特に書を寄せて余の栄選を祝した。余が博士を辞退した手紙が同じく新聞紙上で発表されたときもまた余は故旧新知もしくは未知の或ものからわざわざ賛成同情の意義に富んだ書状を幾通も受取った。伊予にいる一旧友は余が学位を授与されたという通信を読んで賀状を書こうと思っていた所に、辞退の報知を聞いて今度は辞退の方を目出たく思ったそうである。貰っても辞してもどっちにしても賀すべき事だというのがこの友の感想であるとかいって来た。そうかと思うと悪戯好の社友は、余が辞退したのを承知の上で、故さらに余を厭がらせるために、夏目文学博士殿と上書をした手紙を寄こした。この手紙の内容は御退院を祝すというだけなんだから一行で用が足りている。従って夏目文学博士殿と宛名を書く方が本文よりも少し手数が掛った訳である。

しかし凡てこれらの手紙は受取る前から予期していなかったと同時に、受取ってもそれほど意外とも感じなかったものばかりである。ただ旧師マードック先生から同じくこの事件について突然封書が届いた時だけは全く驚ろかされた。

マードック先生とは二十年前に分れたぎり顔を合せた事もなければ信書の往復をした事もない。全くの疎遠で今日まで打ち過ぎたのである。けれどもその当時は毎週五、六時間必ず先生の教場へ出て英語や歴史の授業を受けたばかりでなく、時々は私宅まで押し懸けて行って話を聞いた位親しかったのである。

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