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TORENDIA

怪夢

本文約10,900字 ・ 読了時間 約22分

あらすじ(AIが作成しました)

鉄工所の経営を引き継いだ青年が、機械のうなり声や亡霊の気配が漂う過酷な工場内で実地作業を指揮する様子を描く。続く複数の短編では、空中で怪奇な体験をする偵察機パイロットや、精神病院に収容された者、硝子の世界で追跡劇を繰り広げる男など、日常の裂け目に潜む不可解で幻想的な悪夢のような光景を連ねていく。

夢野久作

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工場

厳かに明るくなって行く鉄工場の霜朝である。

二三日前からコークスを焚き続けた大坩堝が、鋳物工場の薄暗がりの中で、夕日のように熟し切っている時刻である。

黄色い電燈の下で、汽鑵の圧力計指針が、二百封度を突破すべく、無言の戦慄を続けている数分間である。

真黒く煤けた工場の全体に、地下千尺の静けさが感じられる一刹那である。

……そのシンカンとした一刹那が暗示する、測り知れない、ある不吉な予感……この工場が破裂してしまいそうな……。

私は悠々と腕を組み直した。そんな途方もない、想像の及ばない出来事に対する予感を、心の奥底で冷笑しつつ、高い天井のアカリ取り窓を仰いだ。そこから斜めに、青空はるかに黒煙を吐き出す煙突を見上げた。その斜に傾いた煙突の半面が、旭のオリーブ色をクッキリと輝かしながら、今にも頭の上に倒れかかって来るような錯覚の眩暈を感じつつ、頭を強く左右に振った。

私は、私の父親が頓死をしたために、まだ学士になったばかりの無経験のまま、この工場を受け継がせられた……そうしてタッタ今、生れて初めての実地作業を指揮すべく、引っぱり出されたのである。若い、新米の主人に対する職工たちの侮辱と、冷罵とを予期させられつつ……。

しかし私の負けじ魂は、そんな不吉な予感のすべてを、腹の底の底の方へ押し隠してしまった。誇りかな気軽い態度で、バットを横啣えにしいしい、持場持場についている職工たちの白い呼吸を見まわした。

私の眼の前には巨大なフライトホイールが、黒い虹のようにピカピカと微笑している。

その向うに消え残っている昨夜からの暗黒の中には、大小の歯車が幾個となく、無限の歯噛みをし合っている。

ピストンロッドは灰色の腕をニューと突き出したまま……。

水圧打鋲機は天井裏の暗がりを睨み上げたまま……。

スチームハムマーは片足を持ち上げたまま……。

……すべてが超自然の巨大な馬力と、物理原則が生む確信とを百パーセントに身構えて、私の命令一下を待つべく、飽くまでも静まりかえっている。

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