なまけ者と雨
本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
どんよりとした曇り日を鬱陶しく感じる著者が、静かに降り注ぐ雨を見つめることで心をおだやかに凪がせ、無為を愛する境地を綴る。本書は、四季折々の雨や時雨がもたらす風情、旅先で出合う雨の情景、そして雨の日に室内で思索に耽る自身の日常を、多くの自作の歌を交えながら情緒豊かに描き出す随筆である。疲れた心を慰め、なまけている時間を安心して過ごせるものとして、雨とともに生きる独自の心象風景を収める。
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降るか照るか、私は曇日を最も嫌ふ。どんよりと曇つて居られると、頭は重く、手足はだるく眼すらはつきりとあけてゐられない様な欝陶しさを感じがちだ。無論為事は手につかず、さればと云つてなまけてゐるにも息苦しい。
それが静かに四辺を濡らして降り出して来た雨を見ると、漸く手足もそれ/″\の場所に帰つた様に身がしまつて来る。
机に向ふもいゝし、寝ころんで新聞を繰りひろげるもよい。何にせよ、安心して事に当られる。
雨を好むこゝろは確に無為を愛するこゝろである。為事の上に心の上に、何か企てのある時は多く雨を忌んで晴を喜ぶ。
すべての企てに疲れたやうな心にはまつたく雨がなつかしい。一つ/\降つて来るのを仰いでゐると、いつか心はおだやかに凪いでゆく。怠けてゐるにも安心して怠けてゐられるのをおもふ。
雨はよく季節を教へる。だから季節のかはり目ごろの雨が心にとまる。梅のころ、若葉のころ、または冬のはじめの時雨など。
梅の花のつぼみの綻びそむるころ、消え残りの雪のうへに降る強降のあたゝかい雨がある。桜の花の散りすぎたころの草木の上に、庭石のうへに、またはわが家の屋根、うち渡す屋並の屋根に、列を乱さず降り入つてゐる雨の明るさはまことに好ましいものである。しやあ/\と降るもよく、ひつそりと草木の葉末に露を宿して降るもよい。
わが庭の竹のはやしの浅けれど降る雨見れば春は来にけり
しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや
窓さきの暗くなりたるきさらぎの強降雨を見てなまけをり
門出づと傘ひらきつつ大雨の音しげきなかに梅の花見つ
ぬかるみの道に立ち出で大雨に傘かたむけて梅の花見つ
わがこころ澄みてすがすがし三月のこの大雨のなかを歩みつつ
しみじみと聞けば聞ゆるこほろぎは時雨るる庭に鳴きてをるなり
こほろぎの今朝鳴く聞けば時雨降る庭の落葉の色ぞおもはる
家の窓ただひとところあけおきてけふの時雨にもの読み始む
障子さし電灯ともしこの朝を部屋にこもればよき時雨かな
など、春の初めの雨と時雨とを歌つたものは私に多くあるが、大好きの若葉の雨をばどうしたものかあまり詠んでゐない。僅かに、