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TORENDIA

雪霊記事

本文約6,300字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

越前の武生を舞台に、かつて命を救われた恩人・お米さんを訪ねる語り手の道程を描く。かつて旅館の看板娘として評判であったお米さんは、現在、虎杖の里で兄と共に山家住居をしている。激しい吹雪の中、鎮守の社を越えて恩人のもとへ向かう語り手は、雪の渦や幻影に襲われながらも、かつて世話を受けた記憶や、お米さんの面影を胸に秘め、吹雪の山道で苦闘を続ける。

泉鏡花

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一

「此のくらゐな事が……何の……小兒のうち歌留多を取りに行つたと思へば――」

越前の府、武生の、侘しい旅宿の、雪に埋れた軒を離れて、二町ばかりも進んだ時、吹雪に行惱みながら、私は――然う思ひました。

思ひつゝ推切つて行くのであります。

私は此處から四十里餘り隔たつた、おなじ雪深い國に生れたので、恁うした夜道を、十町や十五町歩行くのは何でもないと思つたのであります。

が、其の凄じさと言つたら、まるで眞白な、冷い、粉の大波を泳ぐやうで、風は荒海に齊しく、ぐわう/\と呻つて、地――と云つても五六尺積つた雪を、押搖つて狂ふのです。

「あの時分は、脇の下に羽でも生えて居たんだらう。屹と然うに違ひない。身輕に雪の上へ乘つて飛べるやうに。」

……でなくつては、と呼吸も吐けない中で思ひました。

九歳十歳ばかりの其の小兒は、雪下駄、竹草履、それは雪の凍てた時、こんな晩には、柄にもない高足駄さへ穿いて居たのに、轉びもしないで、然も遊びに更けた正月の夜の十二時過ぎなど、近所の友だちにも別れると、唯一人で、白い社の廣い境内も拔ければ、邸町の白い長い土塀も通る。………ザヾツ、ぐわうと鳴つて、川波、山颪とともに吹いて來ると、ぐる/\とる車輪の如き濃く黒ずんだ雪の渦に、くる/\と舞ひながら、ふは/\と濟まアして内へ歸つた――夢ではない。が、あれは雪に靈があつて、小兒を可愛がつて、連れて歸つたのであらうも知れない。

「あゝ、酷いぞ。」

ハツと呼吸を引く。目口に吹込む粉雪に、ばツと背を向けて、そのたびに、風と反對の方へ眞俯向けに成つて防ぐのであります。恁う言ふ時は、其の粉雪を、地ぐるみ煽立てますので、下からも吹上げ、左右からも吹捲くつて、よく言ふことですけれども、面の向けやうがないのです。

小兒の足駄を思ひ出した頃は、實は最う穿ものなんぞ、疾の以前になかつたのです。

しかし、御安心下さい。――雪の中を跣足で歩行く事は、都會の坊ちやんや孃さんが吃驚なさるやうな、冷いものでないだけは取柄です。ズボリと踏込んだ一息の間は、冷さ骨髓に徹するのですが、勢よく歩行いて居るうちには温く成ります、ほか/\するくらゐです。

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