雪の夜の話
本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
雪の降る夜、姪への土産のスルメを落とした少女は、気落ちする中で美しい雪景色に出会う。人間の眼に見た風景が焼きつくという兄の話を思い出し、その景色をお腹に赤子を抱える義姉に見せようと帰宅する。義姉に雪のような美しい子供が産まれることを願う少女の純粋な心と、それをからかう風変わりな兄のやり取りを通じ、家庭内の情愛とそれぞれの死生観や美意識を綴る。
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あの日、朝から、雪が降っていたわね。もうせんから、とりかかっていたおツルちゃん(姪)のモンペが出来あがったので、あの日、学校の帰り、それをとどけに中野の叔母さんのうちに寄ったの。そうして、スルメを二枚お土産にもらって、吉祥寺駅に着いた時には、もう暗くなっていて、雪は一尺以上も積り、なおその上やまずひそひそと降っていました。私は長靴をはいていたので、かえって気持がはずんで、わざと雪の深く積っているところを選んで歩きました。おうちの近くのポストのところまで来て、小脇にかかえていたスルメの新聞包が無いのに気がつきました。私はのんき者の抜けさんだけれども、それでも、ものを落したりなどした事はあまり無かったのに、その夜は、降り積る雪に興奮してはしゃいで歩いていたせいでしょうか、落しちゃったの。私は、しょんぼりしてしまいました。スルメを落してがっかりするなんて、下品な事で恥ずかしいのですが、でも、私はそれをお嫂さんにあげようと思っていたの。うちのお嫂さんは、ことしの夏に赤ちゃんを生むのよ。おなかに赤ちゃんがいると、とてもおなかが空くんだって。おなかの赤ちゃんと二人ぶん食べなければいけないのね。お嫂さんは私と違って身だしなみがよくてお上品なので、これまではそれこそ「カナリヤのお食事」みたいに軽く召上って、そうして間食なんて一度もなさった事は無いのに、このごろはおなかが空いて、恥ずかしいとおっしゃって、それからふっと妙なものを食べたくなるんですって。こないだもお嫂さんは私と一緒にお夕食の後片附けをしながら、ああ口がにがいにがい、スルメか何かしゃぶりたいわ、と小さい声で言って溜息をついていらしたのを私は忘れていないので、その日偶然、中野の叔母さんからスルメを二枚もらって、これはお嫂さんにこっそり上げましょうとたのしみにして持って来たのに、落しちゃって、私はしょんぼりしてしまいました。