申陽洞記
本文約5,100字 ・ 読了時間 約11分
あらすじ(AIが作成しました)
隴西の青年李徳逢は、猟に出た山中で怪異な猿の群れと遭遇し、それらを退治する。李は古廟に潜む猿の王を弓矢で傷つけた後、穴へ転落した先で猿たちの住処「申陽之洞」に迷い込む。そこで医者を装い、毒薬を用いて猿の王とその部下を滅ぼす。救い出した三人の女のうちの一人は豪家銭氏の娘であり、李は銭家に迎え入れられ、富貴の身となる。物語は、この不思議な体験を経て困窮から脱した男の顛末を描く。
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元の天暦年間のことであった。隴西に李生という若い男があった。名は徳逢、年は二十五、剛胆な生れで、馬に騎り、弓を射るのが得意であったが生産を事としないので、郷党の排斥を受けて、何人も相手になってくれる者がない。しかたなしに父の友達で桂州の監郡をしている者があるので、その人に依って身を立てようと思って、はるばると桂州へ往ってみると、折角頼みにしていた人が歿くなっていて、世話になることができない。故郷へ帰ろうにも旅費がないので困ったが、その辺は山国で有名な山が多いので、李生はその山へ眼を著けて、猟をして自活をすることに定め、毎日弓を持って山の中へ出かけて往った。
ある日平生のように弓を持って山へ往ったところで、一匹の鹿が林の中から出てきた。李生は好い獲物と思ったので、急いで矢をつがえて射ようとした。獣は驚いて山の方へ逃げだしたが、その逃げ方が非常に早いので、矢を放すことができない。それでも李生は逃がしてたまるものかという気で、どんどん追っ駈けて往った。獣の姿は木の陰になったり草の中になったりして、李生に矢を放す機会を与えなかった。
山のうねりがあり、岩の並んでいる谷底があり、雑木の林があった。李生はどこまでもとその獲物を追っ駈けた。落ちかけた夕陽がひょろ長い赤松の幹に射しているのが見えた。獣は見えなくなってしまった。李生はその獲物の姿の隠れて往った谷の下の林の方を見て立った。
いつの間にか陽が入っていた。紫色に煙って見える遠山の空に一抹の夕映の色が残っていた。李生は驚いて急いで山をおりようとした。方角は判らないが、夕映から見当をつけて、南と思われる方へおりて往った。林の下はうっすらと暮れていた。鳥や獣の啼く物凄い声が谷々に木魂をかえした。山のうねりが来た。李生はそのうねりを登って往った。古廟の屋根が見えた。李生はそれを見ると、そこで夜を明かして朝になって家へ帰ろうと思いだした。彼はその廟を目がけて登って往った。