氷河鼠の毛皮
本文約6,000字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
ベーリング行の急行列車に乗る人々の中に、高価な毛皮を自慢する紳士タイチがいた。北極近くで黒狐を猟する計画を語り酒に酔う彼は、周囲と諍いを起こす。列車が吹雪を抜けて極寒の地へ入ると、突然車内に銃を持った男たちが乱入し、毛皮を大量に身に着けたタイチを連行しようとする。その時、窓辺にいた帆布姿の青年が彼らを制止し、緊迫した交渉の末にタイチを救い出す。凍てつく車内の騒動と極北の光景を描く物語。
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このおはなしは、ずゐぶん北の方の寒いところからきれぎれに風に吹きとばされて来たのです。氷がひとでや海月やさまざまのお菓子の形をしてゐる位寒い北の方から飛ばされてやつて来たのです。
十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗つてイーハトヴを発つた人たちが、どんな眼にあつたかきつとどなたも知りたいでせう。これはそのおはなしです。
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ぜんたい十二月の二十六日はイーハトヴはひどい吹雪でした。町の空や通りはまるつきり白だか水色だか変にばさ/\した雪の粉でいつぱい、風はひつきりなしに電線や枯れたポプラを鳴らし、鴉なども半分凍つたやうになつてふら/\と空を流されて行きました。たゞ、まあ、その中から馬そりの鈴のチリンチリン鳴る音が、やつと聞えるのでやつぱり誰か通つてゐるなといふことがわかるのでした。
ところがそんなひどい吹雪でも夜の八時になつて停車場に行つて見ますと暖炉の火は愉快に赤く燃えあがり、ベーリング行の最大急行に乗る人たちはもうその前にまつ黒に立つてゐました。
何せ北極のぢき近くまで行くのですからみんなはすつかり用意してゐました。着物はまるで厚い壁のくらゐ着込み、馬油を塗つた長靴をはきトランクにまで寒さでひびが入らないやうに馬油を塗つてみんなほう/\してゐました。
汽罐車はもうすつかり支度ができて暖さうな湯気を吐き、客車にはみな明るく電燈がともり、赤いカーテンもおろされて、プラツトホームにまつすぐにならびました。
『ベーリング行、午後八時発車、ベーリング行。』一人の駅夫が高く叫びながら待合室に入つて来ました。
すぐ改札のベルが鳴りみんなはわい/\切符を切つて貰つてトランクや袋を車の中にかつぎ込みました。
間もなくパリパリ呼子が鳴り汽罐車は一つポーとほえて、汽車は一目散に飛び出しました。何せベーリング行の最大急行ですから実にはやいもんです。見る間にそのおしまひの二つの赤い火が灰いろの夜のふゞきの中に消えてしまひました。こゝまではたしかに私も知つてゐます。
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