女坑主
本文約12,800字 ・ 読了時間 約26分
あらすじ(AIが作成しました)
筑豊の炭坑王の未亡人である新張眉香子は、ある日、エチオピアへの渡航と爆薬の提供を求める青年と対峙する。青年は自身の同志と共にスエズでイギリス軍艦を爆破し、欧州情勢を撹乱して日本の勢力拡大を図るという壮大な虚無主義的計画を明かす。しかし、眉香子は青年の正体と計画を既に見抜いており、警察と協力して彼らを追い詰める。自らの地位を守り抜く女坑主と、過激な理想に燃える青年の対決を描く。
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「ホホホ。つまりエチオピアへお出でになりたいからダイナマイトをくれって仰言るんですね。お易い御用ですわ。ホホホ」
新張炭坑の女坑主、新張眉香子は、軽く朗らかに笑った。
初期の銀幕スターから一躍、筑豊の炭坑王と呼ばれた新張琢磨の第二号に出世し、間もなく一号を見倒して本妻に直ると、今度は主人琢磨の急死に遭い、そのまま前科者二千余人の元締ともいうべき炭坑王の荒稼ぎを引き継いで、ガッタリとも言わせずにいるというしたたか者の新張眉香子は、さすがに顔色一つかえないまま、こうした無鉄砲な要求を即座に引き受けたのであった。
四十とはトテモ見えない襟化粧、引眉、口紅、パッチリと女だてらのお召の丹前に櫛巻頭。白い素足と真紅のスリッパにゴチック式の豪華を極めた応接間をモノともせぬ勝気さを見せて、これも炭坑王の奢りを見せた真綿入緞子の肘掛椅子に、白い豊満な肉体を深々と埋めている。その睫の長い二重瞼の蔭から、黒い大きな瞳をジイッと据えて微笑された相手の青年は、その素晴らしい度胸と妖気に呑まれて恍惚となってしまったらしい。
みすぼらしい茶の背広に、間に合わせらしい不調和な赤ネクタイを締めていながらも、それこそ新劇の二枚目かと思われる、生白い貴公子然たる眼鼻立の青年であったが、それが今更のようにビックリして純真らしい、茶色の瞳を大きく見開き、薄い、小さな唇をポカンと開いた姿は、一層ういういしい子供らしい恰好に見えた。
「御承知して下さる」
と半ば言いさして、青年は唇を戦かした。
「まあ……エチオピアへでも行こうと仰言るのに度胸が御座んせんねえ。失礼ですけど……ホホホホ」
青年は忽ち颯と赤くなった。そうしてまた急に青白くなって、房々した頭髪の下に隠れている白い額にニジンダ生汗を、平手でジックリと拭い上げた。
「ホントニ……下さる……」
「ええ、ええ。差し上げると申しましたら、必ず差し上げますわ。わたくしも新張眉香子です……ですけど、貴方ホントにエチオピアへいらっしゃるおつもり?」
「エッ……何故ですか」