TRENDIA CLASSIC

近世快人伝

夢野久作

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まえがき

筆者の記憶に残っている変った人物を挙げよ……という当代一流の尖端雑誌新青年子の註文である。もちろん新青年の事だから、郵便切手に残るような英傑の立志談でもあるまいし、神経衰弱式な忠臣孝子の列伝でもあるまいと思って、なるべく若い人達のお手本になりそうにない、処世方針の参考になんか絶対になりっこない奇人快人の露店を披く事にした。

とはいえ、何しろ相手が了簡のわからない奇人快人揃いの事だからウッカリした事を発表したら何をされるかわからない。新青年子もコッチがなぐられるような事は書かないでくれという但書を附けたものであるが、これは但書を附ける方が無理だ。奇行が相手の天性なら、それを書きたいのがこっちの生れ付きだから是非もない。サイドカーと広告球を衝突させたがる人間の多い世の中である。お互いに運の尽きと諦めるさ。

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頭山満

ナアーンダ。奇人快人というから、どんな珍物が出て来るかと思ったら頭山先生が出て来た。第一あんまり有名過ぎるじゃないか。あんなのを奇人快人の店に並べる手はない。明治史の裡面に蟠踞する浪人界の巨頭じゃないか。維新後の政界の力石じゃないか。歴代内閣の総理大臣で、この先生にジロリと睨まれて縮み上らなかった者は一人も居ない偉人じゃないか……とか何とか文句を云う者が大多数であろう。

……怪しからん。頭山先生を雑誌の晒し物にするとは不埒な奴じゃ。頭山先生は現代の聖人、昭和維新の原動力だ。そんな無礼な奴は絞め上げるがヨカ……とか何とか腕まくりをして来る黒切符組もないとは限らないが、まあまあ待ったり。話せばわかる。

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