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TORENDIA

夢の影響

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

小野小町が夢を愛したとされる説を端緒に、夢が日常の気分や創作活動、さらには心理面に与える影響を綴る随筆。著者は、夢を見ることは意識が集中して物事を立体的に捉える芸術的な活動であると主張する。また、古来より伝わる夢解きや夢を売買する習俗、聖人が夢に先人を見る逸話などを引きながら、現代人が夢想家を否定する一方で、人間は誰もが伝習の夢の中に生きているのではないかという問いを投げかける。

與謝野晶子

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🎧 夢の影響 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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小野小町に夢の歌の多いのを見て、小町は特に夢を愛したのだと云ふ説があります。私は特に夢を尊重もしませんが、夢見が好いと其日一日の氣分が何となく嬉しく愉快で、心に張りがあり、仕事をするのに勇氣が自然に伴つて、それがために仕事が意外に捗ると云ふやうな經驗は月の中に二三度もあります。反對に夢見が好くないために氣分がくさくさして、何をしても程好く運ばないと云ふやうなことも月に一度ぐらゐはあるやうです。人は或程度まで氣分に支配されることを免れません。

夢の中で歌を詠んで自分ながら面白いと思つたものが、目が覺めてから考へるとお話にならない駄作であつたりすることは私に屡あります。けれども、その夢ですらすらと歌の詠めたと云ふ氣持が覺めて後の私を非常に興奮させて、其日はまことに樂に筆が執れたりもします。

古人のやうに夢の中で好い歌を感得したやうな經驗は持ちませんが、小説やお伽噺の構想を夢の中で捉へることは屡あります。それには空想的なものもありますが、夢の中では意識が一方に集つて照り輝くためでせう、微妙な心理や複雜な生活状態から目が覺めて居る時よりも一層よく寫實的に觀察することの出來るばかりで無く、其れにおのづから明暗の度が適度に附いて、ちやんと一つの藝術品として立體的に浮き上つて構圖されて居る場合があります。さう云ふ場合に、人が夢を見て居ると云ふことは眠つて居るので無くて、藝術家としての最も純粹な活動をして居ることに當ると思ひます。

それから、また、平生ぼんやりと考へて居ることや、どうして解釋して好いか解らないで行き惱んで居る問題などがはつきりと夢の中で判斷のつくこともあります。さう云ふ場合に夢と現實との間に境目と云ふものが無いやうな氣がします。と云つて、私は夢を少しも當てにして居るのでは無いのですが、小野小町が夢を愛したと云ふ氣持は私にも想像することが出來るやうに思ひます。

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