茶わんの湯
本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
茶わんの湯は、日々の何気ない現象の中に自然科学の真髄を見出す随筆である。著者自身の観察に基づき、立ちのぼる湯げの仕組みや渦ができる原理、日光を当てた際に底に生じる模様について詳細に綴る。これらを身近な自然現象として提示するだけでなく、大規模な気象現象である雷雨や季節風、さらには飛行機が受ける気流の影響との共通性を指摘し、個々の事象が普遍的な物理法則によってつながっていることを論じる。
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ここに茶わんが一つあります。中には熱い湯がいっぱいはいっております。ただそれだけではなんのおもしろみもなく不思議もないようですが、よく気をつけて見ていると、だんだんにいろいろの微細なことが目につき、さまざまの疑問が起こって来るはずです。ただ一ぱいのこの湯でも、自然の現象を観察し研究することの好きな人には、なかなかおもしろい見物です。
第一に、湯の面からは白い湯げが立っています。これはいうまでもなく、熱い水蒸気が冷えて、小さな滴になったのが無数に群がっているので、ちょうど雲や霧と同じようなものです。この茶わんを、縁側の日向へ持ち出して、日光を湯げにあて、向こう側に黒い布でもおいてすかして見ると、滴の、粒の大きいのはちらちらと目に見えます。場合により、粒があまり大きくないときには、日光にすかして見ると、湯げの中に、虹のような、赤や青の色がついています。これは白い薄雲が月にかかったときに見えるのと似たようなものです。この色についてはお話しすることがどっさりありますが、それはまたいつか別のときにしましょう。
すべて全く透明なガス体の蒸気が滴になる際には、必ず何かその滴の心になるものがあって、そのまわりに蒸気が凝ってくっつくので、もしそういう心がなかったら、霧は容易にできないということが学者の研究でわかって来ました。その心になるものは通例、顕微鏡でも見えないほどの、非常に細かい塵のようなものです、空気中にはそれが自然にたくさん浮遊しているのです。空中に浮かんでいた雲が消えてしまった跡には、今言った塵のようなものばかりが残っていて、飛行機などで横からすかして見ると、ちょうど煙が広がっているように見えるそうです。