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TORENDIA

野球時代

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

明治二十年代、南国の田舎中学で始まった野球に熱中した少年は、薬指を曲げながら成長する。四十年後、ラジオを通して早慶戦に沸き返る現代社会の熱狂に疎外感と孤独を抱く学者は、ヒットという遊戯の魅力と思索を重ねる。不確定な現実と因果律をめぐる思索は、いつしか老学者の追懐と夢へと向かう。本書は、近代スポーツの興隆と科学的思考を交錯させ、野球時代の到来を経験する一人の学者の内面風景を綴る。

寺田寅彦

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🎧 野球時代 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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明治二十年代の事である。今この思い出を書こうとしている老学生のまだ紅顔の少年であったころの話である。太平洋からまともにはげしい潮風の吹きつけるある南国の中学にレコードをとどめた有名なストライキのあらしのあった末に英国仕込みでしかも豪傑はだの新しい校長が卒業したての新学士の新職員五六人を従えて赴任すると同時にかび臭いこの田舎の中学に急に新しい文化の風が吹き込んで来た。その新文化の最も目ざましい表象として維新時代の夢のまださめ切らなかった生徒たちの心に強い印象と衝動を与えたものはベースボール、フートボール、クリケット、クロケーそれからボートレースなどの新遊戯であった。若く元気な生徒らの目にはどこかの別の世界から天下って来たような法学士、農学士、文学士の先生たちがシャツ一つになって校庭で猛烈な練習をリードした。生徒らの目には世界が急に素量的に飛躍したように感ぜられた。そうしてさらに次にきたるべき時代への希望と憧憬といったようなものが封建期の子供らの頭の中に勢いよく芽ばえ始めたのであった。

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