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TORENDIA

北氷洋の氷の割れる音

本文約3,100字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

1932年の夏、ソビエトの北氷洋学術研究所所属のシビリアコフ号が北氷洋を横断する航海に成功した。帰路に横浜へ寄港した探険隊員たちと交流した著者は、彼らの科学的探究とソビエト政府の国家的な取り組みを目の当たりにする。本作は、この北極探検の学術的背景や経済的目的を記しつつ、科学技術を軽視しがちな当時の日本の現状に警鐘を鳴らす。科学的発展が国家の命運を左右する時代の到来を予見し、学術振興の重要性を説く一編である。

寺田寅彦

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一九三二年の夏の間に、シベリアの北の氷海を一艘のあまり大きくない汽船が一隊の科学者の探険隊を載せて、時々行く手をふさぐ氷盤を押し割りながら東へ東へと航海していた。しかしその氷の割れる音は科学を尊重するはずの日本へ少しも聞こえなかった。満州問題、五・一五事件、バラバラ・ミステリーなどの騒然たる雑音はわれわれの耳を聾していたのである。ところが十一月になってスクリューを失った一艘の薄ぎたない船が漁船に引かれて横浜へ入港した。船の名はシビリアコフ号、これがソビエト政府の北氷洋学術研究所所属の科学者数名を載せて北氷洋をひと夏に乗り切ったものであるということが新聞で報ぜられた。それでもわれわれはまだかの有名なバラバラ事件の解決以上の興味を刺激されることもなくて実にのんきにぼんやりしていたのである。

O氏の主催で工業クラブに開かれた茶の会で探険隊員に紹介されてはじめて自分のぼんやりした頭の頂上へソビエト国の科学的活動に関する第一印象の釘を打ち込まれたわけである。

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