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TORENDIA

文学は常に具体的

本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

生活的な真実の多様性から説き起こし、民族の経験を雄大な歴史的時間のなかに位置づける芸術の普遍性を論じる。自己陶酔を排し、日々の生活の現実をありのままに描く創造力の必要性を説く。文学は具体的であるほかないという視点に基づき、働く人々の生の波瀾を真実として受け入れる姿勢を提示する。事象の背後にある歴史的矛盾を見つめ、生々しい人間真実の悲喜を再現することで輝きを放つ、真の文学精神の明るさについて綴る。

宮本百合子

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🎧 文学は常に具体的 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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生活的な真実というもののあらわれは、非常に多種多様だと思う。

国民文学が単一に民族伝説(サガ)だけを自身の内容とするのでないことは明らかなわけだから、生活が年々に経てゆく現実の諸相から諸種の文学が生み出されて、そのものの文学としての真実で、国民の所有する文学の宝庫をゆたかにして行って自然だろうと思える。

文学というものの興味つきない胎内では、民族がある時期に遭遇している特殊な歴史の相貌や要望やらというものを、それなりで結論とはしていない。「イリヤード」や「オデッセイ」にしろ、経験された事象が、その経験された時間と空間との中から、もっと雄大な歴史的時間の感覚のなかに放たれて、そこでうたわれ、描き出されているために、その芸術性の故に、普遍性をもっている。

芸術の永遠性ということをいわれるとすれば、それは自己肯定の狭隘を破って、経験された事象が前後につづいて動いている尨大な歴史の上に照らし出され、しかも内容の一つ一つが具体的なそのときの真実にみたされている場合である。

日本の精神が雄壮であるということは、あらゆる人々によって承認されている。雄壮という資質は腕力的ということでないのは知れきったことであるし、真の雄壮は、感傷的な自己陶酔を最も厭い嫌って、真実を愛そうとする天質であることも、言を俟たないであろう。

国民の文学という場合、自身の雄壮を自身の耳に向ってうたう感懐に立ったロマンティシズムのほかに、国民の日々の生活が刻んでいる像を、あらゆる真実の姿でうけいれ、創り出してゆく旺んな創造力の発動にたえるだけに、日本の雄壮な精神も成熟して来ていい頃であろうと思う。

文学は具体的にしかありようのないものである。人間というものが土台からそう出来ている。従って国民のもつ文学、国民の愛する文学も、つづまるところは、個々それぞれの作品であり、個々のそれぞれの作品はとりも直さず日本の農村の生活が生きる姿で描き出されている制作であるし、いろいろの職場で働いている人々、或いは働く職場の失われた人々の物語でさえも、万民の生き経る波瀾への共通な愛から評価されていいものなのである。

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